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レアディザスター・モデルの陥穽 続くブラックスワン的な事象で「危機慣れ」か

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もりた・ちょうたろう 慶応義塾大学経済学部卒業。日興リサーチセンター、日興ソロモン・スミス・バーニー証券、ドイツ証券、バークレイズ証券を経て2013年8月から現職。日本国債市場での経験は通算で20年超。グローバルな経済、財政政策の分析などマクロ的アプローチに特色。(撮影:大澤 誠)

2020年のグローバル市場における最大のトピックは、コロナ危機下における株価の大幅な反発だったといえよう。とくに大きなサプライズだったのは、企業収益が減速する中でもPER(株価収益率)が大幅に切り上がる形で株価が上昇したことである。米国のPERは19年末の18倍から22倍に上昇しており、日本でも14倍から18倍に上がっている。米国では1年前の18倍でさえ過去平均よりかなり高く、株価は割高だとの指摘が多かった。22倍という数値は、ITバブル期の00年につけた24倍という過去最高値をもうかがう水準である。

単純な株式投資理論に基づけば、株式のリスクプレミアム(リスクに応じた利回り)は株価収益率の逆数である益回りとリスクフリーレート(無リスク利回り。国債など)との差として算出される。イールドスプレッドともいわれ、現在、これは4%弱である。かつて、株式のリスクプレミアムは消費者の一般的な経済行動(この中には株式投資も含まれる)におけるリスク選好度との対比で高すぎるという研究があった。ノーベル経済学賞受賞者のエドワード・プレスコットらが1980年代に行った研究で、この事象は「エクイティー・プレミアム・パズル」と呼ばれた。当時推計された「あるべき株式のリスクプレミアム」は1〜2%であった。

危機に慣れたのか

プレスコットらの研究の後、なぜ株式のリスクプレミアムが恒常的に高いのかについて多くの経済学者が仮説を提示しているが、そのうちの1つに、「レアディザスター(まれだが起こりうる大惨事)・モデル」がある。それは、何十年かに一度の大災害や戦争などによって経済や企業収益が大きな打撃を受けるリスクを計算に入れた結果、株式のリスクプレミアムは高めに設定されているというものである。

今回のコロナ危機などは、まさにこの「レアディザスター・モデル」の想定ケースといえるが、実は、ほんの10年余り前にも「リーマン危機」という「レアディザスター」を経験している。当時は「百年に一度」の事象、「ブラックスワン」などとも評されたが、わが国ではその2年半後には「東日本大震災」と「原発事故」が発生し、「千年に一度」のことだといわれた。

そして、今回のコロナ危機である。もし「レアディザスター・モデル」の考え方が正しいのであれば、これだけ立て続けに「ブラックスワン」的な事象が発生すると、株式のリスクプレミアムは上昇してもおかしくない。実際、リーマン危機後の数年間は、イールドスプレッドで計測されるリスクプレミアムはそれ以前の数年間よりも上昇していたのである。しかし、今回はむしろ低下傾向である。

現在の市場は、わずか十数年の間に「ブラックスワン」のような事象を何度も目にしたことで、「危機慣れ」してきた面もあるのかもしれない。しかも、どんな「危機」が起きても、政府や中央銀行がマクロ経済政策で救ってくれるという強力な「経験」を積み重ねてきた結果としての「慣れ」である。「レアディザスター・モデル」の想定する「危機」が「レア」でなくなってきた結果、リスクプレミアムが低下し始めているのだとすれば、大いなる皮肉である。

しかし、実は政府や中央銀行が埋め合わせできる「危機」は、本当の意味での「危機」ではない可能性がある。もしそうだとすれば、将来、本当の「危機」が起きたときに、市場は織り込んだリスクプレミアムの適否を問われることになる。

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