取りまとめが難航している新銀行規制の行方 トランプ次期大統領の就任で後退に拍車か
2008年の世界金融危機によって、国際的な銀行監督基準を定めるバーゼル銀行監督委員会が世界中の金融界の注目の的となった。各国政府は銀行の危機が国境を越えて広がるのを防ぐため、従来の基準だったバーゼル2に代わる、より厳格なグローバルルール(バーゼル3)の策定に躍起になった。
その結果として09年4月、従来の金融安定化フォーラムを拡大・強化する形でFSB(金融安定理事会)が創設された。そのポイントは主要ルール策定にG20(先進20カ国・地域)の全代表を含める点にあった。メンバーシップ拡大により、銀行システムの資本増強に対する政治的な支援拡充を期待したのだ。この変革は有効だったといえる。
そして13年から新銀行規制のバーゼル3が段階的に導入された。バーゼル3では、個別の銀行に義務づける資本の規模を2倍以上に増やし、資本の質を向上させた。その結果、銀行システムの安全性がやや高まったように見える。
だが19年のバーゼル3完全導入を前に、最終的な取りまとめが難航している。これは危険な兆候だ。
FSB発足の前、関係者の多くは組織の拡大が障害になるとの見方を示していた。金融危機まで日米欧にカナダの代表者を加えた十数人だったルール決定メンバーが20人以上へと増え、合意形成が困難になると見ていたのだ。しかし、この点は大きな問題ではなかった。
問題はむしろ、米国と欧州との意見の食い違いにあった。米国は銀行の内部管理の厳格化や、銀行がリスクに応じて資産を減らすことに制限を課すよう求めてきた。
一方で欧州当局は、銀行の企業への融資リスクは本質的に低いと主張してきた。EU(欧州連合)加盟各国の銀行の融資先には、米国の資本市場を活用できる高格付けの大企業が多い、というのがその理由。また住宅ローンの証券化が進んでいる米国ほどには、銀行にとって不動産融資のリスクは高くないとも主張してきた。
このため、16年11月にチリのサンティアゴで開催されたバーゼル銀行監督委員会の会合は、バーゼル3の最終的な取りまとめには至らず、17年に再度開く会合に結論を先送りした。これでグローバルスタンダードの未来は、従来よりも不透明になった。
バーゼル3の取りまとめに向けてはほかにも課題がある。一つは各国の独自ルールとの調整である。
08年の危機以来、多くの国々は表向きにはグローバルルールの厳格化を支持しながら、一方では自国独自の金融システムを保護する策を講じてきた。それは金融機関が破綻した場合、後始末はその金融機関が拠点を置く国々の当局に委ねられるからだ。銀行が世界中に支店だけを置けばよいという時代はとうの昔に過ぎ去ったのだ。
ドナルド・トランプ氏が米国の次期大統領となることも障害になりそうだ。トランプ氏は国際協調に懐疑的で、「米国を再び偉大にする」と標榜してきた。彼が率いる次期米政権が、グローバルな銀行規制強化に前向きになるとは考えにくい。
欧州にも、EUから離脱する英国とユーロ圏との関係をあらためてどう規定するかという問題がある。ECB(欧州中央銀行)はこうした英国の問題に加え、イタリアの銀行危機にも対処する必要がある。
このような事情で、バーゼル3の取りまとめには難題が山積している。しかしグローバルスタンダード策定の取り組みが後退すれば、長期的に皆が苦しむのは自明の理だ。
新規制の取りまとめを主導するBIS(国際決済銀行)、FSB、そしてバーゼル委のトップは17年、いずれも入れ替わる。新たなBIS総支配人となるカルステンス氏(現メキシコ中央銀行総裁)ら3人には、あらゆる外交手腕が求められる。






















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