「大腸がん」が日本で増え、アメリカで減る理由 検査が国民に根付いているかどうかがポイント

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今や、日本では新規がん患者数でトップの大腸がん。一方、アメリカでのその数は、近年大きく減少している。同じ医療先進国でありながら、なぜ両国で差が出ているのか。その背景には、大腸がんが「予防のしやすいがん」であるということが関係している。研究が進む、大腸がんの実態とその予防法とは――。

「検査」が大腸がんを大きく減らす

「専門家からすると、今では大腸がんは発見しやすく、予防のしやすい『勝ち目のあるがん』といえます。だから大腸がんにかかり、亡くなってしまうのは『もったいない』というのが正直なところです」

そう語るのは、大腸内視鏡を専門とし、日本がん予防学会理事長でもある石川消化器内科院長・石川秀樹氏だ。

以前にもお伝えしているとおり、日本の大腸がんは戦後、罹患数・死亡数ともに大きく増えている。直近のデータでは、全がんの中で死亡数は2位、罹患数で1位※1。2016年に行われた「全国がん登録」導入後初の集計では、新規がん患者のトップになった。

ところが、アメリカでは増えるどころか、1970年から2016年の間に大腸がんの死亡率は53%も減少している※2。実数で見ると、大腸がんで亡くなったのは、日本で5万681人に対して、アメリカでは5万260人(ともに2017年)。年齢構成比が異なるので単純に比較はできないが、日本の人口はアメリカの4割しかいないにもかかわらず、死亡者数はアメリカを超えていることになる。

しかも、日本で大腸がん患者が増える理由として指摘されるものの1つが、「食の欧米化」だ。日本食と比較すると、アメリカの食事は高脂質、高カロリーとされ、実際に肥満率は日本よりアメリカのほうが圧倒的に高い。日本人のほうが健康的な生活を送っていると思われがちだが、大腸がんでは逆転現象が起きているのだ。

>>>「大腸がんがあって、小腸がんがない理由」はこちら

これはいったいどういうことなのか。その理由の1つが、大腸がん検診の受診率にあると石川氏は語る。

「実は現在アメリカでは、保険制度を改正するなどして大腸のスクリーニング検査がとても受けやすくなって2015年には50〜75歳の62.9%※3が実際に検査を受けており、その中には内視鏡検査も含まれています」

では、大腸内視鏡検査を受けることで、なぜそれほど大腸がんが減るのか。ポイントは、ポリープの発見・摘除にあるという。

「大腸がんは、腺腫(せんしゅ)というポリープが変化して起こると考えられています※4。内視鏡検査では、ポリープを発見しその場で摘除することができ、それが大きな予防となるのです」(石川氏)

日本がん予防学会理事長
石川消化器内科院長
石川秀樹医師

一方、日本では大腸がん検診といえば、便を検査して血液が含まれるかどうかを調べる「便潜血検査」が主流だ。便潜血検査だけなら一般的に数千円程度、自治体によっては無料で受けられるが――。

「便潜血検査を毎年受け、そこで陽性が出たらただちに内視鏡検査を行うのであれば、便潜血検査はとても有効な検査法です。ですが、実際は、便潜血検査を毎年受けている人はかなり少なく、また陽性反応が出ても『内視鏡検査が怖い』『どうせ痔だろう』などと放置する人も多いんです。以前より検査の機器も医師の技術も向上して、内視鏡検査の体への負担は軽減されていますし、腺腫を摘除することで将来の大腸がんが予防できるので、ぜひ受けていただきたいですね」(石川氏)​

>>>「大腸がんがあって、小腸がんがない理由」はこちら

予防には生活習慣を整えることが重要

大腸がん予防のもう1つの大きな柱となるのが、生活習慣を整えることだ。近年、大腸がんの発生に影響する環境因子がわかってきている。まず、大腸がんを抑制するといわれているのが野菜の摂取と運動。反対に大腸がんを促進する可能性があるのが、アルコールと赤肉だ※5

「食物繊維の豊富な野菜や穀類を適度にとることで大腸がんのリスクは減らせます。また、がんを促進する赤肉とは牛肉と豚肉のことで、食べるとしても1日平均80グラム以下を目安としましょう。運動が有効であるということもほぼ確実です。ほかのがん促進因子によってリスクが上がっても、ある程度であれば運動することによって”チャラ”になるという論文もあるほどです」

しかも、その理由が興味深い。

「大腸がんには、直腸と結腸が含まれますが、運動が有効なのはとくに結腸です。直腸は肛門につながるところで、結腸はそのさらに奥のところになります。結腸は固定されておらずブラブラしていますので、腰を左右に振れば、直腸よりも結腸のほうが動くわけです。つまり、ブラブラしているところだけが運動によってがんの予防ができるというのは、物理的な刺激が影響している可能性があります」

一方で、さまざまな病気を誘引するとされる「たばことお酒」は、大腸にも容赦しない。

「たばことお酒は残念ながら、とればとるほど大腸がんのリスクは一直線に高まります。まずは禁煙していただき、飲酒量は男性で1日1合、女性で0.5合までを目安とし、週1日程度は休肝日を設けるようにしましょう。さらに、お酒を飲んで下痢する人は腺腫が多いという論文※6もあるので、より注意したほうがいいかもしれません」(石川氏)

また、ヨーグルトなどに含まれる、大腸の状態を整える「ビフィズス菌」にも、大腸がん予防の効果が期待できる可能性がある。例えば「ビフィズス菌BB536」には、大腸がんのリスク因子のひとつと考えられるETBF菌を除菌する機能が報告されている※7

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大腸は年齢とともに劣化するが、そのスピードを生活習慣の改善で遅らせ、がんという大敵に対しては適切な検査によって回避することも可能だ。予防ができるがんだからこそ、やれることをやっておくのが、賢い生き方といえるだろう。

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