「雑な暗殺」疑惑に騒然、サウジ皇太子の末路 週末に事態は急展開の可能性

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アメリカのムニューシン財務相やイギリスのフォックス国際貿易相も欠席を表明するなど、政府レベルにもボイコットの動きが広がってきた。もはや、ムハンマド皇太子らの責任をまったく問わない形での解決策を見いだすのは困難な状況になりつつある。

ただ、こうなっては困るのがトランプ大統領だ。トランプ氏の娘婿クシュナー大統領上級顧問を通じてムハンマド皇太子と強力なパイプを築き上げ、サウジとの関係を中東戦略の中心に位置付けてきたからだ。

ムハンマド皇太子のイメージは失墜

昨年5月のサウジ訪問でトランプ氏は総額1100億ドル(約12兆円)の軍事品売却で合意するなどアメリカの軍需産業にとってサウジは欠かせない存在だ。さらに過激派組織「イスラム国」(IS)などテロとの戦いでもサウジは有力な同盟国であり、武器売却凍結などに踏み切れば、サウジがロシアや中国に接近しかねない。

人権という人類共通の価値観を尊重するよう求めて対サウジ関係の見直しを求めるメディアや議会関係者の声も無視できず、経済や外交という実益を優先させたいトランプ大統領の苦悩は深まるばかりだ。

事件のこれまでの展開で特徴的なのは、サウジが効果的に反論できず、改革派とも評されたムハンマド皇太子のイメージが再生不可能なほどに失墜したことだ。一方、総領事館という盗聴が一般的に行われているような場所で、しかも政治的に対立するトルコで白昼に暗殺団を堂々と送り込んで、ジャーナリストを殺害するという蛮行になぜ及んだのかという謎が残る。

カショギ氏は、アメリカ政権中枢に大きな影響力を持つ有力紙ワシントン・ポストのコラムニストを務めていた。サウジ政府がPR会社やコンサルタント会社に何百億円も支払って行ってきたイメージ戦略を、一本の記事によって台無しにしてしまうような実力を持っていた。だが、サウジ批判を繰り広げているのはカショギ氏だけではない。だとしたら、サウジはカショギ氏の何を恐れたのだろうか。

カショギ氏は、その経歴から有能かつ影響力のあるジャーナリストの枠には収まり切らない人物だったことがうかがい知れる。同氏は、元駐米、駐英大使だったトルキ・ ファイサル王子のメディア顧問を務めたこともある。祖父は、アブドルアジズ初代国王の主治医であり、故アドナン・カショギ氏という超大物の武器商人だったおじもいる。その人脈を生かしてサウジを支配するサウド家とのパイプを構築し、支配エリートの一員とみなされていた。

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