やさしい麦茶CMが炎上なしで母を描けた理由 秘密は「歌」と「キャラ」にあった!

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モニターの男性層からは「これぞ、おかん!という感じ。笑えるが、最後は泣けるストーリーがいい」「今はいない自分の母親を思い出した」「母親はみんな同じなんだ」と、一人の息子としての共感が寄せられた。50代、60代のお母さん層は「クスッと笑いあり、そうそうと納得するのもあり、ジーンと涙というものもあり。家族がいるから母は頑張れるのです」「自分と重なる部分がありすぎて泣けた」など、リアルな自分に重ね合わせるモニターが多数いた。

娘目線版も。お父さん、やめてよ

娘目線の「お父さんあるある」のCMもある。同じく東京ガスのCMで、現在も放送中なのが「やめてよ」篇。かつて父親は大黒柱として家族の畏敬の対象だったが、いまや多くの娘たちにとっては面倒くさい存在だ。CMに登場する父は、朝からタオル1枚でテレビを見る。「って言うか、化粧、濃くないか」と娘の化粧に口を出す。メールには変なスタンプを使う。Tシャツをパンツにインするのがファッションの基本。テレビに向かって出演者にダメ出し。そんな父に心の中でいつも「やめてよ」と反発する娘。へんな鼻歌を大声で歌う父には、思わず強い口調でとがめてしまう。「やめてよ!」。

娘の婚約者が家を訪れた日、唐揚げをおいしいと食べる婚約者に「君、それ6個目だぞ」と声を荒らげ、素直に2人の結婚を喜べない父。娘の幼いころのアルバムを見て思い出に浸る姿に、娘が「寂しい?」と問うと、「ああ、寂しいなあ」と答える父。娘が嫁ぐ日、ウエディングドレス姿の娘の手を取ってバージンロードを進む時、父は「幸せになれよ」とそっとささやく。「やめてよ、お父さん」、父への思いがあふれて娘は涙が込み上げる。

モニターの50代、60代のお父さん層からは「娘をもつ父親なら、皆ジンとくるはず」「父の淋しさもわかる」「自分にあてはめて感じるところがあり、最後の娘の涙に感激」「娘の言葉が少しずつ変化していくにつれ、泣けてくるCM」という感想が寄せられ、日頃の行動にドキッとするほど思い当たる節があるお父さんたちの涙腺は、崩壊寸前のようだ。

お母さん層からも、「娘が言っているような事なので聞き入ってしまう」「うちの娘みたいだ。感動する」「涙ぐんでしまうほど親子の関係がとても良い。娘を思う父の姿がとても良い」と、家庭での様子を思い出し、心を動かされた様子が見える。

「ママあるある」「お母さんあるある」「お父さんあるある」は、何げない日常の中で家族への思いに気づかせてくれる。多くの人が共有できる経験や思い出は、自分ゴト化の最強テーマのひとつかもしれない。

関根 心太郎 CM総合研究所 代表

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せきね しんたろう / Shintaro Sekine

1973年生まれ。1999年株式会社東京企画/CM総合研究所に入社。システム開発・データベース構築の責任者を経て2014年より現職。消費者3000人を対象としたCM好感度調査を中心に、テレビCMの広告効果測定および研究分析を実施。このほか企業へのコンサルティングや情報提供を通して、広告活動の最適化に向けた課題解決のサポートを行っている。

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