日韓最終合意の裏で米政府が進めてきたこと 米国は日韓の和解へ向け努力を重ねてきた

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一方、朴大統領は昨年10月中旬にワシントンを訪問し、韓国が中国寄りになっているという日本からの批判に米国側も同調していることを知った。

韓国、米政府内でも朴大統領は従軍慰安婦問題の解決だけに固執するのをやめ、日本との関係において「2トラック戦略」を採用し、歴史問題と安全保障問題を切り離して話すべきとの声が出始めていた。

こうした中、朴大統領も徐々に態度を変え、11月中旬には安倍首相と面会、両国首脳は国交正常化の記念である2015年末までに合意を結ぶ努力に向け動き出したのである。

合意が覆される可能性も

今回の合意は4年前、最初に議論された枠組みの要点に従ったものだが、いくつか大きな変更もあった。日本は「責任」という言葉の使用を受け入れ、軍の関与の下、多数の女性の名誉と尊厳を傷つけた問題との認識を示した。基金設立も新たなアイデアである。

安倍首相の主張に基づき、日本政府は「最終的で覆すことのできない」合意であることを目指しているが、これを「覆す」のは韓国側だけに限らないだろう。現時点でもっとも危ういのは、慰安婦像の撤去で、韓国側は撤去することに同意したものの、活動家や市民グループの同意を得られた場合に限るとしている。

米国側は今回の合意について、公式には「日韓両国首脳の努力によるもの」と評価している。ただ記者団に対する背景説明では、米国による圧力による「成果」を強調せずにはいられなかったようで、ある政府高官は「米国は適切で、建設的な役割を担った。オバマ政権は和解へのすべての道筋を全力でサポートした。われわれは最良の助言を行い、合意に達することによるわれわれや皆の利点を明確に示した。われわれは静かに、また、可能なときは常に両国の間にある誤解を防ぎ、解こうと努力した」と漏らした。

この合意が決裂する危険性は米国、韓国、そして日本政府も認識しているはずだが、米政府関係者の一人はこう話す。「今の勢いを保つには、この合意を基に前に進む必要がある。少なくともこの合意は日韓双方に利点があるので、当面は双方をとどめておくことができるのではないか」。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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