北陸新幹線「小浜ルート」と原発の意外な関係 「大阪延長」で議論が複雑化、カギ握る福井県

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福井県議会は、2003年に「(県内区間が着工しないなら)今後の原子力政策の推進には反対も辞さない覚悟である」と決議し、国に長野~福井~南越間の同時開業を求めた (2004年、福井駅部分の着工が決定)。

また、2008年以降、敦賀市長や県知事は、トラブルが頻発した高速増殖炉「もんじゅ」と北陸新幹線とをからめた発言を繰り返す。一部の県議は「敦賀までの一括認可が実現しない場合には高速増殖炉もんじゅの運転再開を認めない」とまで言い出した。

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関西電力高浜原子力発電所。原発は地域振興策を引き出す「政治カード」となった(写真:流しの/PIXTA)

福井県が「政治カード」として原発問題を持ち出してきたのには、いろんな事情があるのはわかる。国のエネルギー政策に多大な協力、貢献を果たしてきたのも確かだ。

ただ、原発を「政治カード」とすることへの懸念は県内でもあった。推進派と慎重派の溝をいっそう深め、新幹線誘致のマイナスになりかねないからだ。

そうした駆け引きが功を奏したのか、2008年に、金沢~福井間、敦賀駅部の工事認可の方針が示される。2012年に金沢~敦賀間の工事実施計画が認可され、延長区間の工事がスタートした。

一方、東日本大震災以降、原発は次々と停止していった。嶺南地域の14基はすべて止まったままだ。

地域エゴでない議論を

2015年12月、事態は急展開している。

関西電力は高浜原発3号機の再稼働時期を「2016年1月下旬」と発表し、福井県知事と高浜町長が同意を表明した。福井地裁は再稼働を認めたが、県内の世論は二分したままだ。

国土交通省は2016年度予算概算要求で大阪延長ルートの調査費として8.5億円を盛り込んだ。今年度の4倍だ。北陸新幹線に1000億円を配分する方針を固めたが、大阪延長ルートにはどの程度を認めるのか。

また、新幹線と在来線を直通するフリーゲージトレイン車両の開発延期が正式に発表された。この車両は金沢~敦賀間の認可、着工の前提条件とされてきたが、12月7日の東洋経済オンライン記事が指摘するように、技術的な問題点は山積している。無理に工期を短縮して敦賀までの建設を急ぐべきなのか。

大阪延長ルートの与党検討委員会の西田昌司委員長は2016年5月までにルートを絞り込むべき、と発言した上で、「小浜ルート」を京都府舞鶴市経由にアレンジした5つ目の案を検討対象に盛り込んだ。次回参院選直前というタイミング、しかも彼は京都府選出の議員だ。露骨な言動には首をかしげざるを得ない。

このように、北陸新幹線を取り巻く事情と利害が複雑に変化していく中で、政治家や自治体が声高に持論を主張しあうだけでは合意形成は難しい。地域エゴによる「我田引鉄」は見苦しい。どのようなプロセスで大阪延長ルートを決定するのか、焦らず落ち着いた議論を重ねることが今こそ大切ではなかろうか。
 

森口 誠之 鉄道ライター

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1972年奈良県生まれ。大阪市立大学大学院経営学研究科前期博士課程修了。主な著書に『鉃道未成線を歩く(国鉄編)』『同(私鉄編)』など。

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