【産業天気図・自動車】ドル安、サブプライム問題で大転換期、雲行き悪化へ

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ここ数年「晴れ」が続いた自動車業界だが、大きな転換期に差し掛かりつつある。要因は、大きく3つ。原材料高とドル安、そしてサブプライム(米国の信用力の低い個人向け住宅融資)問題の影響だ。特にサブプライム問題の影響は従来の見方より長期化することが懸念される。そのため、08年度(前半)を「晴れ」としていた前回(9月時点)の天気見通しを、今回は「曇り」に変更する。
 3つの要因のうち、原材料高はこれまでの販売増ペースを続けられれば吸収可能な範囲だと考えられる。部品の共通化や統合、原材料の変更など、「お家芸」の原価低減も着実に続いていることも下支えするだろう。
 また2点目のドル安も、ある程度の業績変動要因にはなるが、本質的に日本の自動車業界の競争力をそぐものではないと見られる。足元ではドルが一時110円を割り込むなど為替は急展開を見せているが、今07年度下期の為替前提は、1ドル110円~113円が平均的であり、為替変動の今期業績へのインパクトは限定的だろう。問題は来期以降だが、一方で1ドル110円をさらに大きく割り込む円高が急進行する可能性は低いのではないだろうか。仮にそうなっても、各社が従来進めてきた海外現地生産が威力を発揮するうえ、国内生産も好調なドル経済圏以外への輸出を増やすなどの分散化で、ある程度の対策が打てる。確かに、過去数期にわたって続いた円安による利益押し上げ要因はもはや見込めない状況だが、かといって為替が単独で大幅な減益要因になるとは考えにくい。
 結局、自動車業界の先行きの視界を曇らせている最大の要因は、3つ目のサブプライム問題の影響だろう。米国の自動車の全体需要は2007年は1600万台(前年比3%減)とみられ、08年はこれを下回ることは業界のコンセンサスとなっている。問題はその減少幅だ。日産自動車<7201>のカルロス・ゴーン社長は、「08年は1600万台から1550万台の間。最悪でも1550万台と見ている」と記者団に語っている。仮に1550万台とすると、日本車メーカーは大幅増を続けるのは難しいが、かといって大幅減に転じるほどでもない水準だろう。
 一時は原油価格が1バレル100ドルを突破するといった原油高騰を背景に、ガソリン価格も歴史的な高水準にあるため、日系メーカーの低燃費小型車の人気が高い。依然として販売不振の「ビッグスリー」を尻目にシェア拡大を維持し、日系メーカーは横ばい程度の販売が確保できるのではないか。ただし、大きな流れとしては、ドル箱である米国市場での販売に陰りが出てくるのは間違いない。そのため、米国以外の地域でいかに販売を伸ばせるかも、各社の明暗を分ける材料となるだろう。
 個別企業を見てみると、トヨタ自動車<7203>とホンダ<7267>はコンスタントな新車投入もあり、米国販売が大崩れする危険性は非常に低い。2社とも米国以外のアジアや欧州などの販売が順調なため、07年度下期から08年度にかけても小幅増益のペースは維持できそうだ。また、日産自動車も従来の新車端境期による販売不振からようやく抜け出した状況だ。もともとアジアや欧州は順調、これに新型「ローグ」「ムラーノ」などを投入した米国も元気がいいし、今後も多くの新車投入計画がある。米国市場が大幅な減少とならない限り、日産の業績回復基調は固いだろう。このように日系ビッグスリーのファンダメンタルズの強さにはまったく変化はないが、サブプライム問題の影響で外部環境が急速に悪化しつつある点はやはり留意すべきだろう。日本車メーカーはもともと業績予想を保守的に見積もる傾向があるため、上記3社は08年5月に発表される会社側の08年度業績見通しでは、減益予想となる可能性はある。
 一方、下位メーカーのなかでは、スズキ<7269>はもともと米国販売が少なく、シェア5割を握るインド市場は好調が続く。黒字が定着してきた三菱自動車<7211>も同様に米国以外が業績拡大要因となっており、目下、この2社がもっともサブプライム問題とは遠い銘柄だろう。マツダ<7261>は現在、「マツダ2」(日本名デミオ)「マツダ6」(日本名アテンザ)と発売が相次ぎ、近い将来主力の「マツダ3」(日本名アクセラ)の投入も予定されている。もっとも重要なモデルチェンジが重なる時期だが、欧州では引き続き高評価を得て、アジアなどでも販路を拡大しつつある。ただ、米国市場には出遅れぎみでこれから販売増への加速を、というタイミングにサブプライム問題の逆風が吹いている。省燃費人気に乗れるかがポイントとなるだろう。
【野村 明弘記者】

(株)東洋経済新報社 四季報オンライン編集部

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