海外発「ECB、石油、円」が日本株下落の要因だ 薄商いの中で心理的動揺が出た波乱相場

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それにもかかわらず、主要国の株価の下げが大幅になったのは、行き過ぎの反応であったと言える。百歩譲って、欧州の株価が下落するのが妥当だったとしても、日米株価まで大きく下げる必要はなかっただろう。

Oの原油価格下落については、米国でエネルギー関連銘柄が売り込まれ、それが米株価指数全体を押し下げたことはうなずける。しかし資源輸入国で原油価格の低下が景気にプラスである日本において、米国の株価指数が下落したことを表面的に怯え、国内株価が大きく下げるというのは、あまりにも狼狽気味だ。

産油国の日本株売りも心理に影を落としているが、もともと産油国が蓄積した富は、日本など消費国から高価格の原油輸出で得たものだ。日本から原油貿易を通じて流れ出した資金が、日本株投資という形で還流していたに過ぎない。

とすれば、産油国から日本株に流れ込む資金が細っても、それは日本から原油購入により流れ出す資金が少なくなっているためであれば、日本全体としては中立とも言える(もちろん、日本の原油購入額の変化と産油国の日本株投資額の変化が必ずしも同額ではない、とか、原油が下がって恩恵があるのは家計や企業、原油価格下落により悪影響を受けるのは株式市場と、メリットの受け取り手とデメリットの受け取り手が違う、という議論はありうる)。

売られすぎを脱却し底入れ反転へ

Yの円相場については、日本時間で129日(水)昼から1210日(木)未明にかけて、対米ドルでは2円幅弱の急上昇となった。変動幅はそれと比べれば限定的だが、週末も120円台に突入する動きをみせている。

この円高は日本の輸出株を買いづらい空気を産みだし、やはり国内株価の悪材料として働いている。ただ、円高の理由として海外発のリスク要因が多いため、いわゆる「リスク回避のための円高」が生じた、という解説が多い。しかし、欧米株の下落リスクを避けて欧米株を売り逃げ、それが外貨売り円買いになっている、ということであれば、円高と並行して日本株が相対的に堅調でないとおかしい。ところが、日本株は欧米株以上に下振れしているような状況で、腑に落ちない。

おそらく、円安に賭けている投資家を狼狽させ円買いに走らせよう、という仕掛けの可能性もあり、このままさらなる円高が進展していくとは見込みにくい。円高による日本株売り、という流れは早晩収束しよう。

とすれば、日本株は売られ過ぎを脱却し、年末から来年に向けて再度上昇基調に復しよう。ただし目先は、内外株式市場ともに投資家の心理は揺れ動いており、理性より恐怖でリスク資産を投げるような投資行動が、短期的には続きうる。1211日(金)の米国市場のように、そうした動揺が嵩み、日経平均が19000円を大きく割れる展開が否定できない。とは言っても、株価が下げる正当な理由はなく、心理的な下振れに過ぎないので、中期的には株価上昇シナリオを見込んでよいだろう。

今週(1214日~18日)の日経平均株価は、1860019500円と波乱含みの広いレンジを予想せざるをえない。そろそろ来年の相場動向について当コラムで述べる時期だとは思うが、それは次回に展望したい。  

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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