ECBドラギ総裁とOPEC総会への失望は大きい 株式市場の期待高める要人発言に注意せよ

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米国で利上げが控えており、ECBの追加緩和策を結果的に縮小せざるをえなかった事情もあったようだ。ドラギ総裁が自らの発言に縛られ、意図的に理事会を追い込もうとしたものの、理事会メンバーから個人的な批判を受けたとされている。今回の一連の出来事で、ドラギ総裁に対する市場の信頼は完全に失墜したといえる。これは、夏ごろのイエレンFRB議長と同じ過ちとも言える。市場との対話は難しい作業だが、とはいえ、市場を動かせると勘違いするのは大きな誤りである。今後、これらの要人から市場の期待を高めるような発言が出たときには、十分な注意が必要である。

市場への影響力が低下したOPEC

ディスアポイントメントの二つ目はOPEC総会だ。結果的に減産は見送られ、加盟国内部での産油政策の違いが浮き彫りになった。これは非常に厳しいといわざるをえない。市場への影響力は著しく低下し、減産もままならない状況であるため、原油価格の反発は当面見込みづらくなった。

反発するとすれば、本欄で繰り返し言及しているように、為替相場がドル安基調へ転換することに期待するしかないだろう。筆者は、原油相場の底値をそれほど深くないと見ているが、予断を許さない状況にあることに変わりない。また逆に大幅に反発した場合には、コスト上昇による企業業績の悪化につながるため、株式市場にはネガティブ要因になることも忘れてはならない。

日経平均株価は軟調に推移し、200日線が位置する1万9410円をとうとう割り込んだ。その下の1万9160円には100日線が位置している。さすがにこれを割り込めば、下落基調が強まるだろう。その場合の下値のメドは1万8700円だが、米利上げまでにこの水準まで下げるようだと、調整は長引くかもしれない。

株価は企業業績に基づく水準を基準に割高圏と割安圏を往来するのが一般的な動きだが、いまは割安圏に調整する局面と考えられなくもない。そう考えれば悲観的にならずにすむ。米利上げ前後の日本株の調整は避けられないイベントと割り切り、この下げ局面でいつ買うかをじっくりと考えたい。2万円前後の高値で手仕舞う機会があった読者は、ゆっくりと状況を見極めることができるはずである。

今後1週間(12月10日~16日)の日経平均株価の予想レンジは、1万9150円~1万9650円としたい。

江守 哲 コモディティ・ストラテジスト

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えもり てつ / Tetsu Emori

1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事入社。2000年に三井物産フューチャーズ移籍、「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」としてコモディティ市場分析および投資戦略の立案を行う。2007年にアストマックスのチーフファンドマネージャーに就任。2015年に「エモリキャピタルマネジメント」を設立。会員制オンラインサロン「EMORI CLUB」と共に市場分析や投資戦略情報の発信を行っている。2020年に「エフプロ」の監修者に就任。主な著書に「金を買え 米国株バブル経済の終わりの始まり」(2020年プレジデント社)。

 

 

 

 

 

 

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