安倍カラー「自民60年」が暗示する日本の針路 「困難な道を突き進んだ歴史」を強調したワケ

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サプライズゲストが語る南アフリカ戦の“ミラクル”は、2012年9月の自民党総裁選を連想させた。

3年前の総裁選では、一般党員に最も人気があったとされる石破茂氏に、安倍首相は第1回投票で199票対141票と負けた。議員票で石破氏を20票上回ったものの、地方票では165票対87票と大差を付けられている。ところが決戦投票で安倍首相は108票を獲得し、89票の石破氏に逆転勝利を収めている。

安倍首相は国会議員の間での支持も盤石とは言えなかった。総裁選前に安倍首相が立ち上げた私的な勉強会は、総裁選の支持者を集める「踏み絵」のようなものだった。それなのに参加した議員の中には、石破支持を公然と口にした者も多かったのだ。

1位の石破氏が過半数をとれなかったため、決戦投票が行われることになったが、この時、自民党本部では異様な緊張感が漂っていた。食堂のテレビは正午のニュースで第1回目の結果を流していたが、それを食い入るように見ていた人たちには、逆転への期待が感じられた。石橋湛山・石井光次郎の2・3位連合に岸信介が負けた1956年の総裁選の例もある。さらに聞こえてくるのは、議員票を求めて素早く動く安倍支持の議員たちの動向だった。そしてついに安倍総裁の誕生。奇跡の逆転勝利は、W杯ラグビー南ア戦での勝利にも通じるものだった。

安倍首相の思惑が感じられる人選

立党60年記念式典は、東京・高輪のグランドプリンスホテル新高輪で開かれた

次が来賓の挨拶で、友党である公明党の山口那津男代表と経団連会長の榊原定征東レ株式会社相談役最高顧問が登壇した。安保関連法に賛成し、自民党に秋波をおくる次世代の党などは招かれていなかったようだ。正式に「仲間」として認知されるには、まだ遠いのか。

「地方議員による決意表明」には、神戸洋美愛知県議と有里真穂豊島区議が登壇した。神戸氏は自民党が誕生した1955年生まれで、県議4期目。初当選した時は自民党から32年ぶりの女性議員の誕生と報じられた。大学卒業後は幼児教育に携わり、県議になってからは女性就労問題や不妊治療、DV救済など幅広く取り組んでいる。また1983年生まれの有里氏は今年4月の区議選で初当選したばかり。青年海外協力隊を経て、在フィジー日本大使館勤務の経験がある。いずれも女性活用を目玉にする安倍首相の思惑が感じられる人選だ。

そしていよいよ記念式典のメインである安倍首相による立党記念演説だが、今年4月に米上下院合同会議で行われた演説「希望の同盟へ」の締めの部分の映像で始まった。

“Join our hands together and do our best to make the world a better, a much better place to live, alliance of hope. Together, we can make a difference. ”

14回のスタンディングオベイションを含め、35回もの拍手で米国議会に歓迎されたこの演説は、安倍首相にとって今年最高の成功といえるだろう。

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