規模だけでは勝てない、明快な戦略が必要だ 日産のカルロス・ゴーン社長兼CEOに聞く

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──それでも、国内生産100万台は維持できますか。

できますよ。11年度は震災で低稼働の時期があっても国内で約120万台生産した。12年度は中国の生産能力を拡充し、メキシコやブラジルで新工場の建設に着手するが、それでも同水準の国内生産を予定している。コミットメントである100万台は達成できると思っている。

栃木工場については、短期的には在庫調整やモデルチェンジに伴って減産を迫られる場面はある。しかし、今後インフィニティは、グローバルで販売台数を3倍以上伸ばし、増加分を現地で造る。栃木工場の将来性について心配する必要はない。

 エコカー補助金後の反動減も、それほど不安はない。どの国でも妥当な消費水準を守るために、インセンティブが働くものだ。今の補助金が終わったら、もう何もなくなるということはないと思う。それに、仮に反動減で国内市場が2割落ちても、生産は100万台水準を維持できる。あらためて政府にお願いするとすれば、もう少し円高を妥当な水準にしていただきたい。

ルノー日産の提携は自立性と規律性持つ

──かつて業界には「400万台クラブ」という言葉がありました。いま自動車メーカーが生き残るためには、どれくらいのボリュームが必要ですか。

私はそういった考え方に賛同したことはないし、具体的な数字を申し上げたこともない。もし、台数が成功の保証にはなるなら、なぜ最大の自動車メーカーだった米ゼネラル・モーターズが経営破綻したのか。

大事なのは整合性が取れ、一貫した戦略を持っていること。整合性が必要な理由は、それが効率性につながるからだ。いま世界で最高レベルの業績を上げている自動車メーカーは、明快な戦略を持ち、そして実行が伴っている。それが大事で、台数はその後だ。つまり、台数は戦略を極大化するものであるが、(戦略の)置き換えにはならない。

そもそも台数は、すべて自前で増やす必要などない。アライアンス(提携)によって獲得は可能だ。日産の販売台数は484万台(11年度)だが、ルノーとの提携で800万台近い規模を持っている。

 ──他社のアライアンスがうまくいかないのに、なぜルノー日産だけがうまくいっているのですか。

ルノー日産の提携には自立性があり、規律性もある。そして単に言葉だけでなく、行動も伴っている。

先日はロシア最大の自動車メーカー、アフトワズへの出資を決めた。狙いはロシア市場で大きなプレゼンスを確保すること。それにはやはり、現地メーカーと手を組まなければならない。私どもが技術や商品などのノウハウを、アフトワズが生産能力やスケールを提供し、そしてロシア政府からはサポートをいただく。アフトワズの「ラダー」ブランドは残し、ルノー日産と合わせ、市場占有率で4割を目指す。

──一部には電気自動車(EV)「リーフ」の売れ行きを懸念する声があります。

震災もあり、11年度の販売は期待よりも下回った。それと円高。この車を販売するときに、こんな円高になるとは思っていなかった。12年度は米欧でバッテリーや車両組み立てを始める。現地生産を始めることで円高の影響を緩和でき、今年度は販売台数を倍増させる計画だ。

 (撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済2012年5月26日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

 

鈴木 雅幸 東洋経済 記者

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すずき まさゆき / Masayuki Suzuki
2001年東洋経済新報社入社。2005年『週刊東洋経済』副編集長を経て、2008年7月~2010年9月、2012年4月~9月に同誌編集長を務めた。2012年10月証券部長、2013年10月メディア編集部長、2014年10月会社四季報編集部長。2015年10月デジタルメディア局東洋経済オンライン編集部長(編集局次長兼務)。2016年10月編集局長。2019年1月会社四季報センター長、2020年10月から報道センター長。
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並木 厚憲 東洋経済 記者

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なみき あつのり / Atsunori Namiki

これまでに小売り・サービス、自動車、銀行などの業界を担当。テーマとして地方問題やインフラ老朽化問題に関心がある。『週刊東洋経済』編集部を経て、2016年10月よりニュース編集部編集長。

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