楽観論が聞かれる今こそ市場急変に要注意 気になる米国のダウ輸送株指数の伸び悩み

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長期的なパフォーマンスについても興味深いデータがある。末に6の付く年(たとえば1996年や2006年など)の初めに投資を始め、9の付く年(たとえば1999年や2009年)の末に手仕舞いした場合のパフォーマンスは、米国株が34%なのに対し、金は56%と高率である。したがって、来年の2016年から2019年までは、金に投資した方がより高いパフォーマンスが得られるかもしれない。

本欄ですでに解説したように、過去のサイクルから今後はコモディティのパフォーマンスが株式を上回る可能性が高いのだが、この点からも金投資のタイミングとしては「いまがベスト」ともいえる。現在の市場において、顕在化していないリスクが存在しているのであれば、今の時期の株価や金の値動きには十分な注意が必要である。市場では「リーマンショックの再来」を指摘する関係者もいる。株価上昇時には強気になりがちだが、リスクを指摘する声に耳を傾ける余裕を持ち合わせおきたい。

輸送株指数が示す株価の頭打ちリスク

筆者が注意しているサインの一つに、ダウ輸送株指数の伸び悩みがある。輸送株指数はダウ平均株価などに対して先行性があるのだが、最近の上値が明らかに重くなっているのだ。「チャイナショック」と呼ばれる株価調整が終わり、米国株は力強い上昇を見せ、今年の高値近辺まで回復しているものの、輸送株指数はまったく上がっていない。そのため、今後も輸送株指数が伸び悩み、下落に転じるのであれば、米国株の持続的な上昇見通しを疑ってかかるべきであろう。

原油価格が上昇に転じた場合には、目先は好材料視されるかもしれないが、いずれ企業のコスト上昇につながるとの連想が働き、株価の抑制要因になる。ドル安は米国がいまもっとも必要としている政策なので、ドル安が原油価格の上昇を後押しすれば、そのリスクはますます高まることになる。12月4日にはOPEC総会が開催され、減産合意に関する思惑から原油に買い戻しの動きが加速するリスクもある。

また12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)に向けて、利上げ観測が高まることも想定される。この時期はさまざまなリスクが交錯しやすい。市場の急変には常に注意しておこう。今後1週間の日経平均株価の予想レンジは、1万8350円~1万9200円とする。

江守 哲 コモディティ・ストラテジスト

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えもり てつ / Tetsu Emori

1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事入社。2000年に三井物産フューチャーズ移籍、「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」としてコモディティ市場分析および投資戦略の立案を行う。2007年にアストマックスのチーフファンドマネージャーに就任。2015年に「エモリキャピタルマネジメント」を設立。会員制オンラインサロン「EMORI CLUB」と共に市場分析や投資戦略情報の発信を行っている。2020年に「エフプロ」の監修者に就任。主な著書に「金を買え 米国株バブル経済の終わりの始まり」(2020年プレジデント社)。

 

 

 

 

 

 

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