《ミドルのための実践的戦略思考》マイケル・ポーターの『競争の戦略』で読み解く部品営業担当者の悩み

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だからこそ今回の値下げ要求についても、田中はもちろん応じるつもりはなかった。しかし、今回ばかりは勝手が違った。大口顧客からは実際に発注量を大幅に減らされてしまったのである。それ以外にも発注量を減らしてくる顧客が相次ぎ、田中の担当顧客からの売上は昨年対比70%まで落ち込んだ。今までにない落ち込み方に、田中は驚いた。

「これでは目標に対し大幅な未達になってしまう」。焦った田中は値下げに踏み切ることにした。「おそらく中国製品はすぐにボロを出すはず。そこまでの辛抱です」と上司を説得し、今までの価格から最大3割引きまでの値下げに対する了承をもらい、顧客に対して価格の再提案を行ったのだ。その迅速な対応で、一部の顧客は発注量を増やしてくれたものの、結果的に、利益率は大幅に悪化した。「これも少しの辛抱だ」。田中はそう自分に言い聞かせていた。

ところがある日、資材調達部から連絡が入った。「原料価格の高騰により、調達先から資材を5%値上げしたいという要望が来ています。困りました・・・。値上げはどの調達先も足並みをそろえているようです」。

田中は言葉を失った。これで原料の調達コストが5%も上がったら、完全に赤字に突入だ・・・。
 
田中はとりあえず直接会って話を聞きたいと思い、資材調達部に向かった。しかし、話を聞いたところで、どうにかなるとも思えなかった。

■理論の概説:「5つの力」(マイケル・ポーターの『競争の戦略』より)

マイケル・ポーターが1980年に発表した『競争の戦略』は、経営戦略を学ぶ多くの人たちにとってのバイブルになっています。この書籍に書かれた中で最も有名な概念が「5つの力」(5 Forces)というものです。『競争の戦略』には他にも、「3つの基本戦略」など有名な概念が提示されていますが、ポーター自身が「この5つの力のフレームワークが出発点であり、それ以降の話はここから始まるのである」と言うとおり、戦略を考える上での最初のステップに位置づけられることが多いのが、この「5つの力」です。

「5つの力」とは、競合他社、新規参入者、サプライヤー、顧客、代替品という「5つの競争要因」によって「業界構造」が魅力的かどうか(=儲かりやすいかどうか)を分析し、その分析に基づいて戦略を立案することの有効性を説いたものです(以下の図を参照)。

このコンセプトが伝えている重要なメッセージは、「企業の収益性は、所属している業界構造によって大きな影響を受ける」ということになります。さらに平たく言うなら「どれだけ頑張っても、儲かりやすい業界にいれば儲かるし、儲かりにくい業界にいれば厳しい」ということになるでしょうか。

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