貿易赤字になっても日本に危機はこない--リチャード・カッツ

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対外純資産があれば危機には見舞われない

時期についてはエコノミストの間で見解が分かれるものの、日本が慢性的な貿易赤字の時代に向かっている、というのがコンセンサスだ。もし貿易赤字が所得収支の黒字を上回るようになると、経常収支が慢性的に赤字になってしまう。しかし日本がそのような事態に陥るには、貿易収支とサービス収支の赤字を合計した額が、11年に記録した410億ドルの3~5倍に増えなければならない。しかも、企業にとっては円高を利用して海外の企業や資産を以前よりも安く買収できるようになるため、純所得の増加が見込める。

JPモルガン証券の菅野雅明・チーフエコノミストは、経常収支の慢性的な赤字は早ければ15~16年に始まる可能性がある、と予測している。一方、モルガン・スタンレーMUFG証券のロバート・フェルドマン・チーフエコノミストは、日本の経常赤字転落は23年ごろだと見ている。メリルリンチ日本証券の吉川雅幸・チーフエコノミストは、貿易赤字が所得収支の黒字を超える程度にまで拡大するかどうかについては議論の余地がある、と言っている。

経常収支が赤字に転じる時点においてさえ、日本は対外純資産という大きなクッションを維持しているだろう。そのため、対外資産を売却することによって赤字をファイナンスし、資本逃避を穴埋めすることができる。日本が保有する対外純資産は、11年9月末現在でGDPの約53%に相当する。この対外純資産の大部分は外貨準備として政府が保有しており、その額は11年末時点で1兆2970億ドル(GDPの22%相当)に達している。

つまり、資本逃避のリスクが現実味を帯びてくるのは、経常収支が赤字に転じて後、数年経ってからということになるはずだ。欧州諸国を見渡しても、対外純資産がある国は、たとえギリシャなどと同規模の累積債務を抱えていても、危機に見舞われていない。

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