日韓鉄鋼大手が火花、揺らぐ「鉄の絆」の行方 新日鉄住金vsポスコ、技術盗用訴訟の顛末

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しかし、中国の鉄鋼メーカーが国内の需要の伸びを上回る勢いで生産体制を拡充したことで、需給ギャップが拡大。2010年ごろから“鉄余り”が世界的な問題となった。

この危機を乗り越えるため、新日鉄は提携関係にあった旧住友金属工業と経営統合。2012年に新日鉄住金が発足した。同社は生産設備の集約など合理化を進め、2年半で計2000億円のコスト削減を達成し、利益率や時価総額でポスコを抜き返した。

提携の意義は薄れつつある

経営統合は新日鉄住金にとって、経営の選択肢を増やす効果もあった。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の黒坂慶樹アナリストは「相対的に鋼材の生産能力が不足していた新日鉄と、余力のあった住金が経営統合したことで、生産と加工の能力のアンバランスが解消された」と指摘する。

一方、市況暴落によって、アルセロール・ミタルは業績が低迷。大型買収から距離を置くようになり、戦略提携のメリットは薄れつつある。

「2006年には、新日鉄にとって、ポスコとの提携が唯一の選択肢だった。ところが、新日鉄住金になってからは、数ある選択肢の1つにすぎなくなった」(黒坂氏)

関係希薄化の決定打となったのが、技術盗用の発覚だ。今回の一件以降、両社の関係は見直しが進んでいる。タイとベトナムの加工拠点は、今年3月までに相互出資を解消。8月には、資本関係を含む戦略提携の更新期間を、それまでの「5年」から「3年」に短縮した。

現状で有効なのは原料の調達程度。1000億円の訴訟を吹っ掛けた相手と良好な関係を保とうとする姿勢に「今後ポスコとどうしていくか、戦略が見えない」(外資系アナリスト)と批判の声も強い。

ここで出資を解消し相互の持ち株を売ることは、財務基盤の強化を優先課題に掲げるポスコにとって有効な策でもある。両社の長い歴史は日韓経済関係の大きな象徴だ。和解の先にどのような新しい関係を構築するのか。

「週刊東洋経済」2015年10月24日号<19日発売>「核心リポート01」を転載)

松浦 大 東洋経済 記者

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まつうら ひろし / Hiroshi Matsuura

明治大学、同大学院を経て、2009年に入社。記者としてはいろいろ担当して、今はソフトウェアやサイバーセキュリティなどを担当(多分)。編集は『業界地図』がメイン。妻と娘、息子、オウムと暮らす。2020年に育休を約8カ月取った。

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