伊勢丹「スーツ2着5万4000円」が売れるワケ 安いだけでは売れなくなった

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写真左から順に、販売担当の稲葉智大さん、アシスタントバイヤーの口元勇輝さん、セールスマネージャーの太田陽介さん

その結果、誕生したのが、今回の「高コスパスーツ」。インポート生地、日本製、トレンドスタイルという3つの特徴のうち、特にこだわったのが、トレンドスタイルだ。

ブリティッシュ、イタリアンクラシコ、アメリカントラディショナルという3つの伝統的なモデルを忠実に再現した。

太田さんいわく、「“○○モデル”と銘打っているスーツはよそでも販売されているが、きちんと再現するのは実はかなり難しい」そうだ。そこで、スーツを専門にする国内工場に縫製を依頼することで、細やかな仕上がりを実現した。

商品開発での苦労も多かった。コスト抑制もその一つ。「実は、当初は2着4万5000円で作ろうとした。しかし、3つの要素を入れこもうとすると収まらなくなった」(販売担当の稲葉さん)。やむをえず5万4000円となった経緯がある。

「5万4000円」はベストな価格だった

3つのトレンドスタイルをそろえた「(左からブリティッシュ、イタリアンクラシコ、アメリカントラディショナル)。伊勢丹のホームページより

ただし、結果的には5万4000円はベストな選択だったと太田さんは評価している。「1着およそ2万5000円でこの品質、というのは存在しない。例えばいつも有名ブランドのものを身につけている人が着ても、違和感がなくなじむものに仕上がった」。

顧客の反応は、5月の催事で明らかになった。会期が前年より1日少なかったにもかかわらず、売り上げは前年比102%となり、昨年10月の惨敗を取り戻したのだ。この高コスパスーツは、社員の購入も多かった。紳士服を毎日触っているプロの目も満足させたわけだ。

高コスパスーツの快進撃の理由は“ものの良さ”だけではない。実は5月を機に、紙メディア中心だった広告宣伝をウェブ、スマホ、トレインチャンネルに移行し始めたのだという。メンズ館専用アプリのダウンロード数は現在までで1万2000人。太田さんは「“大市”という名すら知らない人に発信していきたい。『百貨店は品質がよくても値段が高い』というイメージを変えていければ」と意気込む。

5月催事では各モデル500着ずつ、合計1500着を投入。そして今回は2000着に増やして販売している。初日を経過しての売り上げは前年比20%増。1200着売れたスーツのうち、高コスパスーツは300着だった。伸びた要因は、昨年にはなかった高コスパスーツであることは明らか。販売の現場は確実な手ごたえを感じていることだろう。

圓岡 志麻 フリーライター

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まるおか しま / Shima Maruoka

1996年東京都立大学人文学部史学科を卒業。トラック・物流業界誌出版社での記者5年を経てフリーに。得意分野は健康・美容、人物、企業取材など。最近では食関連の仕事が増える一方、世の多くの女性と共通の課題に立ち向かっては挫折する日々。contact:linkedin Shima Maruoka

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