自然植生で「森の防波堤」を 植物生態学者・宮脇昭氏③

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みやわき・あきら 1928年岡山県生まれ、植物生態学者。(財)国際生態学センター研究所長、横浜国立大学名誉教授。93年まで横浜国立大学環境科学研究センター教授を務める。著書は『植物と人間』(NHKブックス)、『木を植えよ!』(新潮選書)など多数。

東日本大震災では、南北300キロメートルに防潮林として植えられていた何十万本ものマツが、津波の被害などで失われてしまいました。

震災の当日は、インドネシアで現地の植生調査をしていました。ホテルのテレビで震災の被害状況を知ってショックを受け、すぐに帰国の手配をした。4月に入ってから被災地を回り、地元の方の了解を得て海岸林の被害状況について調査を行いました。すると、やはり海岸沿いのマツはほとんどが根こそぎ倒れ、内陸まで流されていたのです。しかし、深根性、直根性のタブは、津波の被害があった南三陸町や釜石市でも倒れず残っていました。

もちろん、マツ林でも、その土地本来の潜在自然植生の主木群であるタブやシイ、カシ類などが十分混生しているのであれば、防潮林としての働きも期待できます。私の現地調査では、和歌山にある御坊発電所の対岸の煙樹ヶ浜、三重県の七里御浜のマツ林は、このような条件を満たしていました。

このような調査も踏まえ、東日本大震災のような被害が二度と起こらないように、私は海岸近くに土地本来の木々を中心に植樹した防災・環境保全林、「森の防波堤」を作ることを提案しています。

 がれきこそ積極的に使用したい地球資源

震災によって膨大な量のがれきが発生し、この処理も問題となっています。このがれきこそ、「森の防波堤」作りにおいて積極的に使用したい地球資源です。

がれきには自動車のバッテリーなど有害物質を含むものがありますので、これらの毒素は除外します。そして、倒壊した家屋の木材やれんが、コンクリートといった多くのがれきをある程度の大きさに砕いて土と交ぜることにより、「森の防波堤」のマウンド(土台)作りに活用します。そのマウンドの上に、土地本来の常緑広葉樹を中心にポット苗で混植するのです。そうすれば、15~20年後には、多層群落の本物の森が育ちます。その根群は深く育ちますので、マウンドのがれきをしっかりと固定できます。また、がれきで土中にすき間ができるため、根が呼吸できるのです。

がれきを利用した森作りには先例があります。たとえばミュンヘンの都市林では、第2次世界大戦の戦災がれきを土中に埋め、土地本来の樹木の森が育っています。

「森の防波堤」は15~20年でマウンド上で20メートル以上の高さになり、津波被害の防止に役立ちます。環境保全林や観光資源としても、地域社会に貢献できるでしょう。

週刊東洋経済編集部
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