大事なのは我慢、競争、共存 植物生態学者・宮脇昭氏②

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みやわき・あきら 1928年岡山県生まれ、植物生態学者。(財)国際生態学センター研究所長、横浜国立大学名誉教授。93年まで横浜国立大学環境科学研究センター教授を務める。著書は『植物と人間』(NHKブックス)、『木を植えよ!』(新潮選書)など多数。

同質のものしか存在しないモノカルチャーな状態は心地よさそうに思えますが、脆弱な面も持っています。

元来、自然界では特定の種だけが単植されているような場所はありませんでした。多種多様な樹木が、限られた空間の中で我慢しながら、競争し共存してきたのです。このように、条件的には必ずしも最高とはいえない環境が、自然災害に強く、手入れや管理をしなくても何百年、何千年と続く本物の森を作ってきました。だからこそ、潜在自然植生に合った植樹をする際にも、さまざまな種類の木々を混植しています。

すべての生理的な欲望が満たされている状態は、必ずしもよくない。いちばんいいのは、最高条件ではなく、最適条件です。すなわち、ちょっと厳しい、我慢もしなくてはいけない状態が理想的なのです。

最近は、自分と価値観が合わない人とは話もしたくないという人が増えているようです。しかし、自然界と同じように、同質の人間ばかりの社会や組織は脆弱です。多種多様な人間が入り交じって、我慢、競争、共存する社会や組織こそが、長い目で見ればいちばん理想的なのです。

 生きているということ自体が宇宙の奇跡

もう一つ大事なことは、これほど科学や技術が発展しながら、誰一人として、死んだ者を生き返らせることができないということです。

反抗期の子どもが親に、「勝手に産んだ」と言ったりもしますが、生きているということ自体が宇宙の奇跡であり、これほどの幸福はない。

地球という小さな星に、今からおよそ40億年前に原始の命が生まれた。そのDNA、遺伝子が切れずに続いているから、われわれのように今日生きている人たちがいます。

札束や株券がどんなにたくさんあったとしても、人間は200年も生きることはできません。亡くなったら骨まで消えてなくなります。

それでは、何を残すことができるのか。それはあなたとあなたの愛する人の、40億年も切れずに続いたDNAなのです。

本物の森林は、このようなDNAをつなぐための母胎です。災害から生命を守り、多くの生物を育む場を提供しているのです。

都内でも、潜在自然植生を保った森が残っています。たとえば、人工の森ではありますが、生態学的に潜在自然植生に近い種の組み合わせを維持しているのが、汐留にある浜離宮恩賜庭園です。それ以外では、白金にある自然教育園の森などもありますが、広い面積のものは数えるほどしか残っていません。

週刊東洋経済編集部
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