【産業天気図・建設業】公共事業は採算低下。民間建築も競争厳しく「雨」

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07年度の空模様は「雨」となりそうだ。国土交通省による建設大手50社の受注動態調査では、06年度の公共事業の受注量推移は過去2年のペースをほぼ下回っている。さらに、受注時採算の急低下も目立つ。昨年1月の改正独占禁止法施行を境に、ゼネコン最大手5社が関わる大型土木工事などで、官側が用意した入札予定価格の5~7割で落札する「低価格入札」が増えた。
 これに対し、自民党議員が緊急対策会議を設置。昨年12月には国交省が極端な低価格落札案件への調査強化などを盛り込んだダンピング防止策を発表した。このため今年に入って低価格入札には歯止めが掛かったが、昨年受注した工事には07年度以降に着工・計上されるものが多く、業績面ではこれから悪影響が現実化する可能性が高い。
 加えて昨年以降、発注官庁側が設計変更の価格転嫁に厳しく対応する姿勢が目立つ。この結果、手持ち工事でも当初の収益見積もりを下回る案件が増加。それを理由に前田建設工業<1824.東証>や白石<1900.東証>が07年3月期の営業利益予想を大幅に減額した。
 民間建築では、製造業などの設備投資や都市再開発工事が堅調。しかし、優良案件を獲得する「勝ち組」と、施主の買い叩きに遭う「負け組」の差が明瞭になりつつある。たとえば鹿島<1812.東証>や清水建設<1803.東証>といった最大手も安値受注競争を繰り返す一方、地盤の長野県で老舗企業と信頼関係を築いている北野建設<1866.東証>や、新日鉄グループからの工場設備受注が好調な太平工業<1819.東証>など、顧客との密接な関係で採算低下を免れている中堅ゼネコンもある。
 これらを総合すると、07年4月以降は大手・中堅を問わず一部に優良案件を抱えるゼネコンがいるものの、残りの大多数は低採算の公共事業への依存度が高く、また民間建築では首都圏で建築ラッシュが続くとはいえ、安値競争と買い叩きのダブルパンチで採算が低迷しそうだ。特に中堅では人件費・資材費の下請けへの転嫁も難しく、苦境が予想される。逆に言えば、大林組<1802.東証>は名古屋など複数の談合事件で摘発されたが、全体の工事量では民間建築が上回り、かつ技術力・下請企業との強い連携で原価削減が進むため、指名停止等が必ずしも収益低迷には直結しない。
 07年度、好材料があると思われるのは、優先株転換を難なく乗り切った長谷工コーポレーション<1808.東証>や北野建設、都内で規模拡大を積極的に狙うスルガコーポレーション<1880.東証>などか。前田建設も期ズレ工事の状況次第で、大幅な回復が見込める。
 一方、懸念があるのは大型の公共土木工事で低採算工事を抱える大成建設<1801.東証>やハザマ<1719.東証>、中堅の佐伯建設工業<1889.東証>など。そのほか最大手であっても、上記のような理由から公共土木の完工総利益率が下がる場合は、営業利益が06年度を大きく下回るだろう。
【鈴木謙太朗記者】


(株)東洋経済新報社 会社四季報速報プラス編集部

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