誰も語らない、子どもの「性的虐待」の現実 「魂の殺人」が放置される日本

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いろいろなハードルを越えて、逃げたり訴えたりしようと考えても、びっくりするほど支援のリソースがない。小さな子どもはすぐに保護されても、10代後半になると保護されにくくなります。自分の意思で動けるようになると、本人の意思に反してさらうように保護するのは難しい。仮に児童相談所に尋ねられても、本人が「何もされていない」とうそをついてしまったり、保護されても自分から親のところに戻ってしまったりすることもあります。

被害者が何に苦しんで何をひとりぼっちで抱え込んでいるか、現実を知りたくて撮影を続け、何が起きているのか、多くの人にわかってほしくて、このショートフィルムを作りました。

被害の傷跡は何年、何十年も消えない

――「犯罪白書」(平成24年版)では、強姦の加害者に占める親族の割合は4.6%、強制わいせつの場合、1.6%となっています。これは検挙された事件に限った統計なので、植田さんが取材された女の子たちのように、実際は、何年も言えずにいる被害者が多いのでしょうね 。寺町さんは弁護士として、子どもの頃、性虐待を受けた被害者に多く接しています。被害者は何を求めていますか。

寺町:被害者が弁護士に相談しよう、と思えるようになるまで、何年も、いえ、何十年もかかることが多いです。

たとえば成人女性からは「子どものとき、叔父や兄から性被害を受けた。今から訴えられないか」という相談を受けることがあります。

また、相続が発生したときに「過去に受けた性的虐待の事実は相続分を決める際、関係ないのか」とか、かつて自分に性虐待を行った加害者が困窮しているので扶養してほしい、という通知を自治体から受け取り「こんなひどいことをされたのに、自分に扶養義務があるのか」といった相談もあります。

民法の規定で、直系だと強い扶養義務(生活保持義務)がありますが、傍系だと弱い扶養義務(生活扶助義務)しかないので断れますよ、直系でも過去に受けた虐待の事実を説明すれば考慮されますよ、とアドバイスしますが……。

ほかには「加害者と縁を切りたい」とか「名前を変えたい」といった要望もあります。日本には絶縁の制度はないので、加害親族が追いかけようと思うと、追いかけてこられることが問題です。

記事後編:「なぜ子どもの性的虐待は、闇に葬られるのか」はこちら

治部 れんげ ジャーナリスト

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じぶ れんげ / Renge Jibu

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。日経BP社、ミシガン大学フルブライト客員研究員などを経て2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、日本ユネスコ国内委員会委員、日本メディア学会ジェンダー研究部会長、など。一橋大学法学部卒、同大学経営学修士課程修了。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版社)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館)、『ジェンダーで見るヒットドラマ―韓国、日本、アメリカ、欧州』(光文社)、『きめつけないで! 「女らしさ」「男らしさ」』1~3巻(汐文社)等。

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