元安誘導でなく「容認」、人民元騒動の大誤解 本質は人民元の国際化に向けた改革の第一歩

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今回の措置は、これまでブラックボックスだった基準値の設定に際し、前日終値を参考にするというもの。人民銀行は「基準値と市場の実勢が懸け離れて、その差が3%程度集積した」として、実勢に近づけるために制度を見直したと説明している。

「市場の実勢」は、現物と先物(1年物)との乖離に表れている。2014年夏ごろから元先物は現物より一貫して安く推移してきた。

一方で現物はほぼ1ドル=6.1~6.2元の狭いレンジに収まっており、欧米、特に米国に配慮した中国当局が、元買い介入により元安に歯止めをかけてきたのをうかがわせる。

人民元をIMFのSDRに

背景にあるのは米国がこの9月にも利上げを開始するという観測に基づく資金流出だ。ドルで調達した資金を元に換え、中国に投資してきた投機筋が、ポジションの解消に動いているとみられる。

元がドルと強くリンクした状態で米国の利上げが始まれば、ドルに引きずられる形でユーロや円に対する元高が進みかねない。中国では景気対策のための金融緩和が続いており、金融政策の方向性は米国と正反対なのだ。市場メカニズムによる調整が十分利かない現状は、早晩改める必要があったのである。

その第一歩として、介入してでも元安を止めるという政策について、見直しを図ったのではないか。人民元の変動をより許容する方向に進むことは、IMF(国際通貨基金)のSDR(特別引き出し権)の通貨バスケットに、ドルやユーロ、ポンド、円に続き、人民元を入れるという中国の国策にプラスとなる。

IMFは「元の過小評価はすでに解消された」としており、今回の措置も歓迎するとのコメントを出した。8月19日にはSDRの通貨構成を今年は据え置くことが発表されたが、「来年以降に入る可能性は小さくない」(加藤氏)。

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