元安誘導でなく「容認」、人民元騒動の大誤解 本質は人民元の国際化に向けた改革の第一歩

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中国には元買い介入を止めたい、もう一つの理由があった。デフレ傾向が顕著だからだ。

消費者物価指数(CPI)こそまだプラスだが、卸売物価指数(PPI)は41カ月連続でマイナス。足元の7月にはマイナス5.4%と大幅に下落した。「PPIの下落は建設関連の投資が不振なことによる企業活動の停滞を反映している」と神戸大学の梶谷懐教授は分析する。

投資偏重の経済構造を変えたい中国政府は、これまで金融緩和を景気対策の柱に据えてきた。ところが、市場から通貨を吸い上げる元買いは、その効果を減殺してしまう。

デフレ脱却のためには政策の交通整理が必要だった。元安を誘導したのでなく、市場の実勢に合わせた下落の「容認」が実情、と思われる。

不気味な投機筋の動き

8月12日には1ドル=6.45元近辺まで下がった場面で元買い介入があった。「これで当局の考えているラインがわかった。米国やIMFも介入を非難せず、中国の政策にお墨付きを与えた格好だ」とニッセイ基礎研究所の三尾幸吉郎・上席研究員は言う。

しばらくは、元がさらに下がり続ける、というシナリオはなさそうだ。9月には習近平国家主席の訪米という一大イベントが控える。そこで為替政策を批判されるようなことは避けたいはず。ただ「米国の利上げが始まり元安圧力がさらに増したとき、介入がなければ、1ドル=6.7~6.8元くらいまでの下落がありうる」と三尾氏は見通す。

厄介なのは、人民元の対ドル先物レート(1年物)も、実勢値に合わせて下がっていること。「今回の切り下げで莫大な利益を得た投機筋は“2匹目のどじょう”を狙う」(梶谷教授)。完全な変動相場制なら解消されるはずの歪みを抱えた状態で、中国当局は望まない介入を続けざるをえないだろう。

(「週刊東洋経済」2015年8月29日号<24日発売>「核心リポート02」を転載)

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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