大逆風下のコマツ、なぜ今「工場投資」なのか 焦点は在庫削減、独自のIoTが始動

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在庫の金額が膨らむ要因はいくつかある。大型の機種になると、1台あたりの価格で数千万~億円単位になる機械本体の影響が最も大きいが、もうひとつ見逃してならないのが、補給部品の在庫だ。

過酷な現場で働くことの多い建設機械は、多くの部品が消耗品。これらを常に品揃えし、世界中の現場にすぐ届けられる体制を整えるため、どうしても在庫量が膨らんでしまう。ちなみにコマツの場合、先述の6200億円のうち、1900億円程度がこの補給部品の在庫だ。

ただ、サービス上必要なものとはいえ、在庫が膨らみ過ぎれば、値引き販売に繋がったり、販売のメドが立たずに減損を余儀なくされたりと、たちまち大きなコストに化けるリスクが増す。当然、在庫削減に向けた努力が不可欠だ。

独自のシステムで新生産改革

コマツではこれまで、国内の粟津工場の建屋を刷新したり、小山工場にグローバルの補給部品在庫をコントロールする拠点を新設したりと、協力企業も巻き込んだ、生産性向上やリードタイムの短縮化を講じ、ムダな在庫の削減に繋げてきた。

補給部品に関して言えば、コマツは2013年3月期末に2200億円まで膨らんだ関連在庫を、今期末に1700億円まで削減する目標を掲げる。これまでの生産改善活動の結果、前期末にこれを1900億円まで削減できたが、目標までにはまだ200億円の削減が必要だ。

そこでこれまでの施策に加え、コマツは、IoT(Internet of Things = モノのインターネット)活用をテーマに、新たな生産改革にも乗り出している。たとえば、2008年からコマツの建機に標準装備され、足元で38万台超が組み込まれているのが、独自の機械稼働管理システムである「KOMTRAX」。これを通じて得られた市場情報をより精緻に分析し、工場が直接把握できるようにすることで、これまで以上に需要の変化に迅速に対応し、ムダな在庫を溜めない生産体制を目指すという。

どんな業界でも、需要の低迷する状況が続くと、工場の稼働を抑えなければならず、現場の士気も下がりがちだ。が、「メーカーにとって、生産現場は価値を創造する重要な場所」(藤塚主夫・コマツCFO)。生産ボリュームが増えない時期こそ、いかに工場の価値を上げられるかが問われるだろう。

長瀧 菜摘 東洋経済 記者

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ながたき なつみ / Natsumi Nagataki

​1989年生まれ。兵庫県神戸市出身。中央大学総合政策学部卒。2011年の入社以来、記者として化粧品・トイレタリー、自動車・建設機械などの業界を担当。2014年から東洋経済オンライン編集部、2016年に記者部門に戻り、以降IT・ネット業界を4年半担当。アマゾン、楽天、LINE、メルカリなど国内外大手のほか、スタートアップを幅広く取材。2021年から編集部門にて週刊東洋経済の特集企画などを担当。「すごいベンチャー100」の特集には記者・編集者として6年ほど参画。2023年10月から再び東洋経済オンライン編集部。

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