なぜ「ドラえもん」は中国人の心を動かすのか たった1カ月で興行収入が100億円を突破

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中国でテレビアニメの『ドラえもん』の放映が開始されたのは1991年。それゆえ中国のドラえもんファンは、「80後」(1980年代生まれ)、「90後」(1990年代生まれ)が多いと思われる。彼らのほとんどは一人っ子だ。

一人っ子にとって、ドラえもんはヒーローである。中国では1979年から「一人っ子政策」が始まった。そのあとに生まれた人たちの親は、ほとんど共働きで、朝から晩まで忙しい。もちろん祖父母が面倒をみてくれるケースも多いが、一緒に遊んでくれる兄弟や姉妹はいない。

「寂しいダメ人間」を支えてくれるドラえもん

年齢が近い親戚がいても、たまにしか会えない。幼稚園や学校で数時間友達と一緒に居られるが、家に戻ったら、両親だけでなく祖父母まで不在か家事で手一杯で、自分の話を聞いてくれる余裕がない。独りで時間を潰すしかない(日本では2人兄弟が多いのに、ドラえもんに助けてもらう主人公のび太が偶然一人っ子と、中国的な設定になっているのも不思議だ)。

そんな時、登場したのが、心の底から欲しい「仲間」のドラえもんだ。

実は、のび太のように、遊び相手も少なく、自分が「ダメ人間」だと思う、「寂しい子供(特に男の子が多い)」は、中国には非常に多い。『ドラえもん』のテレビ放映が始まった頃、「一人っ子政策の第1世代たち」は、ちょうど小学校高学年で、のび太たちとほぼ同じ年齢であった。

そして何より、他の中国アニメのような完璧な主人公ではなく、リアル感のあるアニメだったのである。家や学校でのシーンも、アニメとほぼ同じであった。主人公と同じく、学校で良い成績を取れず、クラスメートにはいじめられる。

家に帰ったら、母親はいつも背中を向けて何かしていて、今日学校であった話をしようとしても「だめだよ」「いい子にしなさい」「あ、そう」程度しか話さない。好きな女の子もいるが、「僕ではだめだろう」とため息をつく。頭の中でいちばん思うことは、「どうすればいいんだ」である。

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