なぜ「ドラえもん」は中国人の心を動かすのか たった1カ月で興行収入が100億円を突破

拡大
縮小

さらに中国の「3世代消費」ということにも「ドラえもん」は当てはまる。ハリウッドの人気映画と違い、殺伐さはなく「ほんわか」としたテーマ設定の「ドラえもん」は、「80後」「90後」を癒やすだけでなく、彼らの両親や子供までファンにしている。

今や親となった「80後」「90後」は、一人っ子の寂しさを嫌と言うほど味わってきたので、自分の子供にはそんな思いをさせたくない。子供の頃、「ドラえもん」が与えてくれた夢の世界と素敵な仲間に救われたので、彼らは自分の子供に見せたいのである。

また、なによりも「ドラえもん」は、自分の両親もよく知っているキャラクターなので、3世代で安心して鑑賞することができる。一人の80後のファンがいれば、妻・子・両方の親を含め、家族6人で行くことにもなるので、大ヒットにつながりやすい。

中国女性に人気の「暖男」のイメージにも合致

最後に、最近、中国女性の心をつかんでいる「暖男」のイメージにドラえもんが一致していることを指摘しておこう。

一般に中国女性は気が強く、そうとうの経済力や社会的地位がある男性だけを相手にすると思われている。だが、実は近年自国や韓国ドラマの影響で「暖男(ヌアンナン)」という男性のタイプが中国女性に非常に人気である。一見普通ないしはやや小太りで、おカネもあるわけでもないが、いつもそばにいてくれていろいろ自分のことを考えてくれる男性を、「暖男」と呼んでいる。

ドラえもんという存在は、この「暖男」のイメージとぴったり一致する。ドラえもんを、中国女性が愛おしく「蓝胖子(青ふとっちょ)」と呼んでいるのも、そうした理由もあるに違いない。

ドラえもんシリーズは、心の拠り所がない中国の若者の寂しさを埋めてきた。「一番にならなくては」「自分が解決しなくては」といつもプレッシャーを感じている男性に、「静香ちゃん」という恋愛対象、「ドラえもん」という「優しい仲間」を用意し、希望を与えてきた。一方、シンデレラストーリーのような非現実な夢より、身近な「暖男」の方がいいと思うようになった女性にも、「ドラえもん」は優しく寄り添ってくれる。

今後、競争社会に出てストレスや寂しさを抱える一人っ子は、ますます増える。すでに社会に出た一人っ子も年齢を重ねるにつれ、さらに疲弊するばかりだ。コンテンツ産業はもちろん、これから中国向けのマーケティング戦略を立てる時、彼らが求める「癒やし」を提供していくことが重要だ。

劉 瀟瀟 中国若者富裕層ビジネスコンサルティング 代表

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

りゅう しゃおしゃお / Xiaoxiao Liu

「中国・北京市生まれ。外交学院卒。東京大学大学院修士課程修了。メガバンク中国法人、大手シンクタンクなどで勤務。2019年7月~20年8月カリフォルニア大学サンディエゴ校国際政策・戦略研究大学院客員研究員。首相官邸観光戦略実行推進会議有識者など政府委員を務め、情報発信実績を多数有する。日本と日本企業の国際パフォーマンスの向上に貢献するために、①日本・中国を中心とした生活者行動②中国人向けマーケティング③日米中のヘルスケアイノベーションについて研究・コンサルティングをしている。趣味はグルメ

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT