北朝鮮、「100年に1度の大干ばつ」は本当か 「農作業に支障なし」という地域も多数?

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一方で、米国情報企業の分析者は、衛星写真から見た貯水池の状況などから「地域ごとに条件が違うが、南部地方の貯水率は2013年の20~30%レベル」との見方をしている。

国連機関も「今年の降雨量は2012年基準で75%減少した」と発表しており、特に北朝鮮南部・黄海(ファンヘ)北道における水不足の被害がひどい、としている。これは、北朝鮮全体の降雨量は減りつつあるが農業への影響は地域ごとに差があり、被害が甚大な地域もあれば、そうではない地域もある、ということだ。

金正恩政権が本格化した2012年以降、農業分野への国家的な投資や、各農場における自律的な農業経営を進めた結果、農地改良や農機具などへの投資ができるほど経済的余裕がある農場とそうでない農場とに分けられつつある、という指摘もある。

農場の地理的条件も、全国で一律でないのは当然だが、経済的余裕があれば気象条件の変化に対応するための投資も可能であり、植える作物の品種も高品質なものに変えるなどの対策ができる農場もあれば、それができないところもある、ということだ。

朝鮮社会科学院経済研究所農業経営室の金光男(キム・グアンナム、男)室長は2014年9月に東洋経済とのインタビューに答え、2014年も「100年に一度の水不足」と当時の状況を説明しながら、水不足などに対しては「その土地の条件に合った品種、特に促成で多収穫、少肥料で病害虫にも強い品種を開発して実際に植え付けを行うなど対処している」と述べたことがある。

昨年も同様だった「100年に一度」の干ばつ

また、コメなどの穀物は脱穀前で1ヘクタール当たり10トンの生産量が基準とされているが、それを超えることができるかが、今年の農業生産を左右しそうだ。昨年は前述のような水不足と言っていたが、FAOやWFPの統計によると、コメやトウモロコシなどの穀物生産量は497万5000トンと、2013年と比べると13万トン増となった。

一般に、北朝鮮国内での最少穀物必要量は540万トン程度、工業用も含めた必要量は550万~600万トンとされている。この基準から見ると、現在の水準でも明らかに未達だが、中国など海外からの穀物輸入は経済状況の改善でかつてほど厳しくなく、不足分は輸入も可能な状況にあるのが現在の北朝鮮だ。

韓国の北朝鮮専門家らは「今年8月下旬ごろの作況がどうかで、穀物生産量がおおよそ推測できる」と口をそろえる。7月中旬以降は梅雨や台風で降雨量が改善しており、この点の影響がどう出るかも、今後の北朝鮮農業を見るうえでのカギとなるだろう。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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