マイクロソフト「7800人削減」は、吉か凶か ついに旧ノキア部門を大リストラ

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むしろ、愚策とも見られてきたノキアの端末部門買収という、スティーブ・バルマー前CEOから背負わされていた重荷を捨て去ったことによるメリットは小さくない。

そもそもマイクロソフトが直近の第3四半期決算(1~3月)に販売したスマートフォンの台数は、わずか860万台。同期間に6117万台販売しているアップルのiPhoneと比較すると、その差はあまりにも大きい。ここにしがみついていても、展望は開けないのだ。

マイクロソフトには新しい道がある

では、マイクロソフトは何に力を入れるのか。それは、同社の強みを発揮できる基本ソフトと開発ツール、世界中にいるソフトウェア開発者とのコミュニティ作りだ。

マイクロソフトは5月に行われた開発者向け会議で、Windows Phone向けのアプリを増やす具体的な戦略を発表している。Windows 10 MobileというWindows Phone向けの最新基本ソフトにおいては、そのままAndorid向けアプリケーションの実行が可能になるほか、アップルiOS向けに開発されたアプリケーションの場合でも、最小限の作業をするだけでWindows向けに移植できるようにした。

これにより、得意分野である「基本ソフト開発」と「端末ベンダー、アプリ開発者のサポート」にフォーカスするという道を拓いたわけである。将来、モバイル端末分野を刷新するような斬新なハードウェアの開発を行う際は、現在のSurfaceシリーズと同じように提案型の端末を発売することに関しては含みを残しているが、基本線としては「ソフト」にフォーカスする方針を明確にする。

現行のスマートフォン事業が、新たなイノベーションを起こしにくい成熟産業になりつつあることは明らかで、他社とよく似たWindows Phone端末をマイクロソフト自身が作り続けることは、そもそも賢い戦略とは言えない。そうした意味では、今回のリストラはマイクロソフトにとって中長期的にポジティブな影響を与える。

ただし、市場は今回の方針転換を、"スマホ市場からの敗退"と捉えるかもしれない。そうなれば、マイクロソフトがWindows 10 Mobileを供給する端末メーカーの事業にも悪影響を与えてしまうだろう。"撤退"という誤解を解き、懸念を払拭することが、マイクロソフトの喫緊の課題だ。決算発表時に新方針を明らかにするであろうナデラCEOのプレゼン能力が試される局面といえるだろう。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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