「アンチヒーロー」ヒットを予感させる3つの要因 随所に注目ポイントが散らばっている

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コートの襟を高く立てスマートに歩く長谷川博己。見てくれもよくて中身も優秀にちゃんと感じさせられる俳優は貴重である。

長谷川の滑舌のいい、単語の粒だった語りが説得力抜群。時折それが何やら怪しい話術のようなやや胡散臭さも感じさせるところがいい。真面目で清らかな話し方もできる俳優だが、詐欺師みたいなニュアンスを入れてくるところがうまさだ。第1話でも対立する検事・姫野(馬場徹)のほうがクセなく明瞭に語っているのだ。

光と影を勢いよく反転させるのではない、光と影の境界がにじみ揺れ動く、水彩画や木漏れ日みたいな役作りは、明智光秀を演じた『麒麟がくる』、金田一耕助を演じた『獄門島』(2016年 NHK)、哲学者を演じた『はい、泳げません』(2022年)などでも見せてきた技である。大正期の人権弁護士を演じた『リボルバー・リリー』(2023年)でも単なるいい人にならないようにいろいろ裏設定を考えながら演じていたようである。

単なるダークな人物ではなさそう?

『アンチヒーロー』の明墨は、犬を飼っていたり、子どもに優しかったり、関係性がまだ謎の紗耶という少女(近藤華)と話しているときは穏やかだったり、初回の終盤、空を見上げたときの表情が清らかそうだったりと、職場における彼の一連の言動は偽悪的に感じる。

とりわけ、緋山の検察側の証人に立った聴覚障害のある尾形(一ノ瀬ワタル)に対して、彼を騙して利用したようで、代わりに彼の訴訟をただで受けていいと申し出るところなどは、単なるダークな人物ではなさそうだ。

今期、朝ドラこと連続テレビ小説『虎に翼』(NHK)のヒロイン(伊藤沙莉)は法学を学び、のちに弁護士、そして裁判官になる。ヒロインは清廉潔白だが、訴訟の解決にみだらな見返りを求めるような悪徳弁護士も登場した。

もう一作、ラブ&ミステリーをうたった『Destiny』(テレビ朝日)のヒロイン(石原さとみ)は検事で、彼女の前に立ちふさがる敏腕弁護士(仲村トオル)は金や権威のある者を無罪にしていくダークな弁護士である。『虎に翼』にも訴訟が解決してくれるが見返りを求めるような悪徳弁護士が登場した。

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