先進国が掲げる「法の支配」のダブルスタンダード 西洋基準たる「万国公法」の呪縛から脱する時だ

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近年のアメリカの外交姿勢はG20からG7への回帰、国連中心主義から有志連合へシフトしている。「フレンド・ショアリング」を提唱する等、アメリカ一極支配が終焉することへの焦燥感を募らせている。

それを見逃さなかった岸田首相は、演説の冒頭で「米国の世界における自国のあるべき役割についての自己疑念」を鋭く指摘し、世界から孤立するアメリカに、こうダメ押しした。

「ほぼ独力で国際秩序を維持してきた米国。そこで孤独感や疲弊を感じている米国の国民の皆さまに、私は語りかけたいのです。そのような希望を一人双肩に背負うことがいかなる重荷であるのか、私は理解しています。世界は米国のリーダーシップを当てにしていますが、米国は、助けもなく、たった一人で、国際秩序を守ることを強いられる理由はありません。
皆さま、日本は既に、米国と肩を組んで共に立ち上がっています」

「米国は独りではありません。日本は米国と共にあります。日本は長い年月をかけて変わってきました。第2次世界大戦の荒廃から立ち直った控えめな同盟国から、外の世界に目を向け、強く、コミットした同盟国へと自らを変革してきました」

「地政学的な状況が変化し、自信を深めるにつれ、日本は米国の最も近い同盟国という枠を超えて、視野を広げてきました。日本はかつて米国の地域パートナーでしたが、今やグローバルなパートナーとなったのです」

自発的隷従の道を歩むのか

「はて?」。これは日本が、今後はアメリカの子分としてではなく、対等以上のパートナーとして世界をリードしていくという突き抜けた意思表示なのか。あるいは、中国を名指しして「国際社会全体の平和と安定にとっても、これまでにない最大の戦略的な挑戦」と強調したが、これからはアメリカではなく日本が前面に出て中国と対峙していこうという意志の表れなのか。後者だとすれば、アメリカ一極構造から抜け出せない「自発的隷従」と言わざるを得ない。

日露戦争前夜の1903年、新聞には「日英同盟の風刺画」が掲載された。ロシア帝国が満州から朝鮮半島に触手を伸ばす中、その南下を防ごうとイギリスは、ロシアから火中の栗(朝鮮) を日本に拾わせようとする。その後ろで、アメリカは様子をうかがっている。今、プレイヤーを多少入れ替えるだけで、当時と同じ光景が目に浮かぶ。

日英同盟の風刺画(1903)
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