「医師の定員増」に韓国の医師が強く反発するワケ 「医師不足解消」か「選挙目当て」か、政府に大反発

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それに対して、医学部の定員拡大に強硬に反対して職場を放棄した医師や教授たちへの共感が広がらないのは、「医師が増える→競争が激しくなる→収入が減る」という展開を避けたいだけだろうと、冷ややかに見られているためだ。

実際、各種の統計で、医師の収入水準が韓国では最も高いという結果が出ている。例えば、OECDの調査で韓国の開業医の収入は労働者の平均の6.8倍で、これは加盟国で最大の格差。病院の勤務医でも平均の4.4倍とのこと。開業医がとりわけ高収入なのは、やはり「ピ・アン・ソン」が多いためであろう。

「問題は医療行政」と医師側は反論

これに対して、医師の側は「そのような利己的な話ではない」と声高に反論する。地方医療機関や緊急性の高い科で医師が不足しているのは、現行の国民健康保険での診療では小児科医などの報酬が少ないという制度面の問題があるため、皮膚科や整形外科などに医師が偏ってしまうのだと主張。見直すべきは医学部の定員ではなく、医療行政だとして、尹政権を糾弾している。

また、急に2000人も医学部生が増えても、教える側の教授らがすぐに増えるわけではないので、指導の質が落ちるとも話す。確かに、定員を拡大した結果として腕の悪い医師が増えてしまうようでは困る。

そして、医師たちが最も憤慨しているように映るのは、尹錫悦政権がこの2月というタイミングで医学部の定員拡大を掲げたことだ。

これは、4月10日投開票の総選挙を意識した人気取りであり、自分たち医師が政治の打算に利用されるのは許せない、と反発する。実際、この問題が広がって尹政権の支持率はアップした。

尹政権は、そうした政治的な計算を否定するが、額面通りに受け止めるのは難しい。選挙が近づいたら国民にウケのいい政策を打ち出すのは、どこの国でもある。

そうした動きが「国民のため」なのか「票欲しさのポピュリズム」なのかは、有権者が判断すべきこと。医師の側はポピュリズムだと声を荒げているわけだが、あまり響いていない。

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