アップルの"化けの皮"を歌姫が引き剥がした なぜ宣伝負担を業界に押しつけようとしたか
歌姫の抗議に対し、素早く対応したアップル――そんな一幕が話題になっている。一見すれば、アップルが小さな誤りを犯したものの、急転、正しい判断を下して軌道修正をみごとに果たしたように見えるかもしれない。しかし視点を変えてみると、これはアップルが演じてきた”アーティストと共に音楽に自由をもたらしてきた”という役割が、実は偽善であったことを示している。実のところ、カッコ悪い失態ともいえるのだ。
顛末はこうだ。6月21日に米国人歌手のテイラー・スウィフトが、最新アルバム「1989」をアップルの新しい音楽配信サービス「Apple Music」に提供しないことをオープンレターという形で公表した。アップルが最初の3カ月間は無料でサービスを提供するが彼女に届いた楽曲提供を求める契約書には、その間の楽曲使用料が支払われないと書かれていたためだ。それに対して、アップル上級副社長のエディ・キューが、最初の3カ月でも楽曲使用料を演奏者、作詞者、作曲者などに支払うことを約束した。
苦しい音楽業界
テイラー・スウィフトは、加入型音楽配信サービスとしては世界最大規模のSpotifyに対して楽曲提供しないことを発表していた。彼女の主張は「音楽は無料ではない」というものだ。無料で音楽を楽しむ感覚は日本でも若年層を中心に広がっているが、米国では一足先にフリーミアムのビジネスモデルが蔓延。CD売り上げはもちろん、一時は伸びるかに見えた音楽ダウンロードも売り上げは下がってきている。
テイラー・スウィフトにしてみれば、音楽は無料ではないという主張を展開するには、ちょうどいい訴求の場だった。その声にアップルは素早く対応したわけだ。
一見すれば、アップルが小さな誤りを犯したものの急転、正しい判断を下して軌道修正をみごとに果たしたように見えるかもしれない。日曜日に発表されたテイラー・スウィフトの発表に対し、取締役会が開かれたとは到底思えないタイミングでアーティストへの支払いを決めた素早さは、「さすがアップル」と褒められるところかもしれない。
しかし筆者はまったく逆のイメージでこのニュースを捉えた。
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