アメリカ兵の「究極の抗議」が大統領選を左右する バイデン政権に突きつけられた「イスラエル」という問題

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とりわけ、ブッシュネルの行動について、書き手が特段の脚色なしで事実関係だけを伝えようと意識しても、大前提がイスラエルのガザ攻撃に対する抗議なだけに、どうしても彼を「英雄」のように描いたという誹りを受けやすい。また、ブッシュネルは精神のバランスを崩していたという主張も出た(友人らは否定している)。

そうした指摘を受けて、メディアの中には、ブッシュネルが若者たちのアイコンとならないよう、オンラインで掲載した記事の表現を修正した社もある。彼を「称えている」と受け止められる余地のある言い回しを削ったのだ。

一方、はるか遠く離れたパレスチナでも、ブッシュネルの悲劇は大きな反響を呼んだ。2024年3月初め、ヨルダン川西岸にある都市ジェリコの議会は、市内を走る道路に「アーロン・ブッシュネル通り」という名称をつけ、看板を立てた。

ジェリコの市長は「彼はパレスチナ人たちのためにすべてを犠牲にした。私たちと彼は知り合いではなく、社会的・経済的・政治的な結びつきはなかった。分かち合っていたのは、自由への愛と、イスラエルによる攻撃に立ち向かう気持ちだった」と述べ、改めて若い米兵の死を悼んだ。

歴史は韻を踏むか

メディアがブッシュネルの最期を伝えたことに批判はあるものの、歴史を振り返ると抗議の焼身自殺は決して初めてではない。

今回、アメリカのメディアがすぐ引き合に出したのは2つだ。1つは、ベトナム戦争中の1963年、サイゴン(現ホーチミン)の路上で行われた仏教の高僧ティック・クアン・ドックの焼身自殺。

当時、南ベトナムのゴ・ジン・ジェム政権はカトリックを優遇して仏教を弾圧していた。これに対する抗議として、ドックは多くの僧侶たちが見守る中、座禅を組んだまま炎に包まれた。

AP通信が配信した写真は世界に衝撃を与え、撮影した記者はピュリッツァー賞を受賞した。アメリカの後ろ盾で樹立されたゴ・ジン・ジェム政権は、これが引き金となって崩壊に向かい始めることになる。

それから60年を迎えた2023年、現場のホーチミンや首都ハノイなどでドック師の法要が営まれ、改めて彼の自己犠牲の精神が語られたという。

もう1つ、メディアが想起したのは2010年、チュニジア中部のシディブジドでのことだ。路上で野菜を売って家族を支えていた当時26歳のムハンマド・ブアジジが、役人たちの嫌がらせに抗議して地元庁舎前で焼身自殺を遂げた。

その様子がSNSで広がると、ベンアリ政権下ではびこる腐敗に対する国民の怒りが爆発。大群衆が打倒・ベンアリを叫び、わずか1カ月後に23年間続いた独裁政権は倒れた。「アラブの春」の始まりであった。

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