実録!自宅マンション競売の悲痛な実態 住宅ローンを返せないと、どうなるのか

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しかし、毎月19万円程度の収入で生活をやりくりするのは容易でなく、2006年3月から管理費と修繕積立金(合計で月額2万円強)を滞納し始めた。管理組合は電話に訪問、内容証明郵便の送達と、ひととおりの督促を行ったが、残念なことにAさんの対応は不誠実だった。そこで、2008年6月に小額訴訟を東京簡易裁判所に申し立て、督促の場を法廷へと移した。

結果は管理組合の言い分が全面的に認められ、勝訴判決が確定した。組合側には何の落ち度もないのだから、極めて当然な結果だった。想定外だったのは、Aさんに支払おうという姿勢がまったく見られなかった点だ。業を煮やした管理組合は、探偵を雇ってAさんの所在調査を敢行。勤務先を調べ、給与を差し押さえようと債権執行に踏み切った。

ところが、登記簿を閲覧してみると、すでに東京都と都税事務所からマンションの所有権に対し、2008年2月に差し押さえ登記がなされていた。長らく固定資産税や住民税を滞納していたのだ。

さらに調査を進めると、消費者金融から借金していることがわかり、住宅ローンを滞納している事実も判明した。至るところで“滞納の連鎖”が始まっていたのだ。住宅ローン債権は銀行から保証会社へと移管されており、保証会社から残額1748万円の支払請求が2010年7月にAさんのもとへ送られてきた。

抵当権の実行で強制的に自宅売却

Aさんは完全に窮地に追いやられてしまい、残された道は(1)自己破産、(2)マンションの任意売却、(3)強制売却(競売) のいずれかしかなかった。弁護士とも相談し、最もダメージが少ない任意売却を本人に勧めたが、時すでに遅く、主導権は完全に金融機関の手中にあった。

2011年3月、東京地方裁判所の執行官の差出名で、管理組合宛に1通の照会書が送られてきた。「不動産競売事件につき、当該マンションの管理費などの共益費の月額と延滞額について、民事執行法に基づき照会しますので回答をお願いします」という内容の封書だった。

要は、Aさんの部屋はすでに東京地裁によって不動産競売の開始決定がなされていたのだ。競売実施に向けた物件調査の一環で、管理費などの滞納金額についての照会を管理組合に求めてきた。本人の意思とは関係なく、金融機関側は水面下で粛々と債権回収に向けた動きを加速させていた。

次ページローンの呪縛は売却後も続いた
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