災害対応「日本は省庁・組織間の調整が足りない」 元FEMA危機管理官に日本の震災対策の課題を聞く

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――アメリカ政府にはFEMAがありますが、日本にも日本版FEMAが必要だと思いますか。

1995年1月17日、阪神・淡路大震災は兵庫や大阪に壊滅的な被害をもたらした。日本政府は対応が遅いと厳しく批判された。FEMAがどのように組織され、どのように運営されているかを学ぶために日本の当局者がワシントンにあるFEMA本部に姿を現し始めた。

翌1996年、私は札幌で開催された日本災害医学会の大会に招待されて講演した。私がそこにいた間、日本政府が日本版FEMAの設立を検討していると聞いた。しかし30年近く経った今でも、日本はいまだにそれを検討中のようだ。

日本版FEMAについていつまでも議論する代わりに、FEMAのような集権的な災害機関が実際に行っていることのいくつかに注目すべきだ。そして、まったく新しい機関を設立せずに日本がどのようにしてこれらと同じことの多くを行うことができるかを考えるべきだろう。

FEMAは1990年代に他の連邦機関と協力して連邦対応計画(FRP)を策定した。これは大規模災害時に連邦政府全体がどのように対応するかの計画だ。

このアプローチにより、大規模災害時に連邦政府が実行や支援を求められる可能性のある主な任務が特定された。これらには次のものが含まれる。

1.交通機関、2.コミュニケーション、3.公共事業、4.消防、5.緊急管理、6.避難所や集団給食を含む集団ケア、7.ロジスティクス、8.保健医療サービス、9.捜索と救助、10.危険物、11.食料品、12.エネルギー

 

単一の中央政府災害対応計画が必要

これらの任務は「緊急支援機能」(ESF)と呼ばれていた。そこから、FEMAは各ESFについて責任を負う連邦機関を特定した。たとえば、保健福祉省は、災害時の保健医療サービスの計画(ESF8)の作成を担当する。

このようにして各機関はそれぞれの技術分野で災害対応計画を策定した。そして、これらの計画は災害時に各機関が一致して行動し、すべての問題に対処できるように1つの連邦対応計画にまとめられた。

この単一の統一された中央政府の災害対応計画を持つことの利点は明らかだが、別の大きな利点もあった。FRPが発表されると、アメリカ中の州や都市はFRPと同じパターンに従って独自の対応計画を策定し始めた。

これらの計画はほぼすべて相互に一致しているため、災害対応における政府間の協力が容易になる。

例えば、大規模な災害後に健康と医療のニーズがある場合、連邦ESF8スタッフは災害が発生した州ESF8と地方ESF8とただちに調整する。そして、連邦、州、地方という3つの政府レベルのすべての保健と医療専門家が働くことができる。協力してニーズを迅速に評価し、対応策を策定する。

これを行うためになぜ日本に真新しい「日本版FEMA」が必要なのかは私にはわからない。日本にはすでに消防庁があり、ホームページには「消防庁の役割」として「住民と連携した安全・安心な地域づくり」と「緊急時の国家対応」が掲げられている。

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