松本人志氏追い込む文春報道に見えてきた"異変" 長く苦しい裁判闘争のカギを握る「世間の声」

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その取材力と書き口の巧さ、「結局、気になって見てしまう」という戦略も含め、週刊文春の凄さを認めつつも、「やりすぎではないか」「力を持たせすぎではないか」という声が上がりはじめているのです。もちろん「巨大な人や組織を叩いて引きずり落とし、快感を得たい」という人がまだまだ多いのですが、一方で多くの人々は冷静なのかもしれません。

今回の報道に関しても多くの人々から、「松本さんにも週刊文春にも肩入れせず、フラットな目線から情報を集め、学びながらコメントしよう」という姿勢がうかがえます。おそらく百戦錬磨の週刊文春なら、このように賢くなった世間の人々をあなどることなく、政治・経済などのスクープを交えながら信頼性を担保しようとするのでしょう。

ただそれでも今回の騒動で世間の人々が得た情報や学びは大きく、ズバ抜けた力を持つ週刊文春に限らず、他の週刊誌やゴシップ系メディアも含め、少なからずダメージを受けていることは間違いありません。これは松本さんがどう見ても不利な裁判に挑むという「肉を切らせて骨を断つ」ような選択を選んだ成果ではないでしょうか。

「書き得」「書かれ損」は変わるか

筆者には、松本さんが本当にやりたいのは、自身の名誉回復だけでなく、週刊文春や週刊誌の存在意義や取材姿勢を問うことのように見えてならないのです。

後輩たちのためにも、世間の注目を集めたうえで、できれば負かしたいし、勝てなくてもダメージを与えることで「書き得、書かれ損」の現状を変えたい。もし松本さんの頭にそんな思いがあるのなら、現在、得られた”わずかな成果”をいかに保ち、広げていくかが重要でしょう。

だからこそ松本さんは裁判こそ控えているものの、しかるべきタイミングで女性への対応や不倫関係の有無など、性加害以外の部分で問題があったかもしれないところは認めてもいいのではないでしょうか。

真実はまだわかりませんが、確かなのは、証言者の中に不快な思いをし、怒っている女性がいること。だからこそ、そうした人たちには真摯な対応が求められますし、少なくとも松本さんには名誉毀損の裁判で争う姿とは異なる一面を見せてほしいところです。

一方、週刊文春は今後も性加害の証拠につながる記事を追求するでしょう。ただ、世間の人々はそれ以上に「別のスクープでもその取材力を発揮することで確固たる存在意義を示してほしい」と考えているのではないでしょうか。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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