「他人と比べない生き方」では幸せになれない スクールカーストも比較の回避から生まれた

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(写真:TSUYOSHI / PIXTA)
昨今、「他人と自分を比べるべきではない」という考え方が人気を集めている。子どもの運動会で順位をつけないというのもひとつだ。しかし、そうした風潮に精神科医の和田秀樹氏は疑問を投げかける。他人との差異を知り、傷つくことを極端に避けることが、本当に幸せにつながるのか? この記事では、話題の心理学者の言葉などから考えていく。

比べることを成長の糧にすることを説くアドラー

最近、生き方について書かれた売れ筋の本や、子育てのアドバイスになどを見ていても、人と比べないのが望ましく、人と比べることはいけないことのように論じられることが多い。

しかし私自身、精神科医をしているので「そうは言われても、つい人と比べてしまうんですよね……」といった悩みを訴える人も少なからず見掛ける。

人と比べることや競争を否定的にとらえる心理学者も多い一方で、それがむしろ人間の普遍的な心理と考える学者も、実は少なくない。

その代表格と言っていいのが、『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)で、日本でも有名になったアルフレッド・アドラーだろう。カーネギーなどに影響を与え、自己啓発の元祖とも言われており、現在の有力な心の治療となっている認知療法を創設したベックや、カウンセリングのパイオニア、ロジャーズ、あるいは、交流分析を考案したバーンなどにも強い影響を与えたとされる。まさに、精神分析以外(この精神分析学界の最初期メンバーだったのだが、フロイトとたもとを分かっている)の心の治療の源流と言える人だ。

彼は「人間には“優越性の追求”という普遍的な欲求がある」と考えた。

これがうまく満たされないと、劣等感というものを感じるのだが、それが人間のパワーになると考えた。ただし、この劣等感があまり強くなりすぎたり、あきらめにつながったりするようないびつなものになった場合に、これを劣等コンプレックスと呼んでいる。要するに、「どうせ負けるんだから、やらない」といって勉強しないようなパターンだ。

アドラーは、「勇気づけ」といって、このような劣等感を抱く際に、やれば勝てるはず、やればできるはず、と思わせることの重要性を説いている。

要するに人と比べた際に、それですねたり、あきらめたりするのでなく、それを頑張る原動力にできればいいと考えるのだ。

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