「東芝の会計問題、危機管理が不十分だ」 第三者委を歴任してきた久保利弁護士に聞く

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「リスクを完璧には防げない。が、危機管理をきっちりやることで、大事にならないようにする」
東芝は5月29日、一連の「不適切な会計」問題で、本来の期限である6月末から8月末へと、有価証券報告書の提出が遅れることを明らかにした。第三者委員会による調査結果の報告は7月中旬であり、それを反映した前2015年3月期の決算確定が遅れたためだ。定時株主総会も6月25日に暫定的に開き、9月下旬に改めて臨時株主総会を開催する。”2段階”の株主総会という前代未聞の事態だ。
発端は4月3日。東芝では一部のインフラ事業で不適切な会計が発覚し、社内で特別調査委員会を立ち上げた。5月8日には2015年3月期の業績予想を取り下げ。続く13日には、社内の特別調査委員会の調査を受け、2012年3月期から2014年3月期まで営業損失として計500億円強を減額する、と発表。そして5月15日には、全員社外の第三者委員会を新たに設置したというのが、これまでの経緯である。
この異例の事態をどう見るか。ゼンショーホールディングスの第三者委員会の委員長などを務めた久保利英明弁護士に聞いた(インタビューは6月3日)。

クライシスのときにどうするか

――今回の一連の東芝問題をどのように見ているか。

東芝と言えば指名委員会等設置会社であり、「コーポレート・ガバナンス(企業統治)の模範」と言われていた。おそらく東芝自身も、それに自信を持っていたと思う。その東芝で一体何が起きているのだろう、というのが最初の印象だった。

今回の問題は、社外取締役やガバナンスの問題というより、もう少し現場の話だ。「収益を上げろ」というプレッシャーに対して、現場サイドがここまでやったら会計処理上、不適切ではないかという認識がないまま、「これくらいなら仕方ないかな」という程度でやってきたのではないか。その積み重ねが相当期間、広い範囲で行われており、結果的に非常に大きな問題となったと思う。

――2段階の総会とは異例の事態だが。

クライシス(危機)が起きたときにどうするかがきちんと対策できていないことに驚いた。どこで何が起きるか分からないし、起きてはならないことも起きる。だからこそ、このようなことが起きたときの対策や危機管理ができていると、私は思っていた。リスクを完璧に防ぐことはできないが、危機管理をきっちりやることで、大事にならないようにする。そうすることで株主総会を2度やることがないような体制はできるはずだ。

さらには第三者委員会の委員に、グループ会社の顧問弁護士を辞めた人が入っている。不祥事が起きたとき、第三者委員会が常識化している中では、いざというときに「この人たちを集めてやろう」というリストを企業は持っていて当然。そうすると、いくらなんでも、自分のグループ会社の顧問弁護士を入れたりはしない。リスクマネジメントの手立てが全然できていなかったのか。

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