会社と女性が「囚人のジレンマ」に陥るワケ 「女性はすぐ辞めるから育てない」は合理的?

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上司が圧倒的に男性ばかりだと、たとえば「女性は叱りにくい」「泣かれると嫌だ」というような心理的隔たりがあるかと思います。セクハラを疑われることを警戒して男性部下に対してはやっている「一対一で飲みにいく」ことをしなかったりして、いわゆる師弟関係のようなものが築かれにくいでしょう。

別に泣かせずに叱ることもできるでしょうし、泣いてもいいかもしれないし、飲みにいかなくたって指導はできると思うのですが、実際問題、「目をかける」「かわいがる」と変な目で見られることもあるのでしょう。

こうして、女性に情報は入ってきづらくなりますし、女性の情報も上層部に届きにくくなります。そこである意味「公認」でスポンサーを作る取り組みが最近広がりつつあるわけです。

なお、女性役員が登場している企業では女性同士の師弟関係もできていくのかもしれませんが、男性中心社会で「いかに男なみの考え方でやってこれたか」という論理で戦っている限り女性同士は対立しやすくなります。

変に同性を引き上げるとそれで自分の評価が下がると警戒していたりしますから、組織の中でかなり女性の割合が高まらないと、女性が女性を引き上げるというのも難しいかもしれません。

まずは現状を認め、認識を共有しよう

ということで、放っておくと、組織側には女性が成長したり評価されたりしていくうえで不利になってしまう要因がたくさんあるのです。女性比率の少なさに危機感のあるダイバーシティ先進企業は、様々なポジティブアクションの手を打ち始めています。

単に数字を達成するために、一足飛びにとにかくポジションに就かせると、冒頭のような様々な軋轢をうみます。まずは組織全体として、これまで、統計的差別や無意識の偏見、スポンサーがいないことなど様々な要因で男性に比べて育てられる機会が少なかったということを認め、認識を共有することが必要でしょう。

そのうえで、成長機会を改めて提供することが重要と思われます。たいていの女性向け研修では、最初、集められた女性たちもしらっとしています。「どうして今更」「私は大抵のことはできてます」「なんで女だけ、気持ち悪い」と。

ここで、「女性側の意識改革も必要です」なんて言っていると、溝は永遠に埋まりません。彼女たちに本気になってもらえるような成長の機会を提供し、それを受け止めるだけの組織側の体制も用意する。これはCSRではなく、経営戦略です。

今回は「なぜ女性を引き上げる必要があるのか」について、組織側の要因を見てきました。次回は、「とは言っても、そもそも男女には意識や能力に違いがあるんじゃないの?」という疑問に対して、生物学的・社会学的要因を見ていきたいと思います。
 

中野 円佳 東京大学男女共同参画室特任助教

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なかの まどか / Madoka Nakano

東京大学教育学部を卒業後、日本経済新聞社入社。企業財務・経営、厚生労働政策等を取材。立命館大学大学院先端総合学術研究科で修士号取得、2015年よりフリージャーナリスト、東京大学大学院教育学研究科博士課程(比較教育社会学)を経て、2022年より東京大学男女共同参画室特任研究員、2023年より特任助教。過去に厚生労働省「働き方の未来2035懇談会」、経済産業省「競争戦略としてのダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」「雇用関係によらない働き方に関する研究会」委員を務めた。著書に『「育休世代」のジレンマ』『なぜ共働きも専業もしんどいのか』『教育大国シンガポール』等。

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