創造分野でAIが今「できること」と「できないこと」 AIは人間を超える創造活動をできるか?

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「考えられるすべての組み合わせを試みることによって創造する」という手法が、すべての創造行為に適用できるとは考えられない。むしろ、ポアンカレが言うように、人間の創造過程で重要なのは、ある種の方向性を持って探索を行ない、無駄なものは最初から試みないという点なのではないかと考えられる。

それとも、AIの計算速度が非常に速いことが、このことを変えてしまうのだろうか?

生成AIの芸術作品は創造とは言えない

以上で述べたのは科学・技術の分野だが、芸術においても同じ問題がある。音楽は人間の最も原始的な感覚である聴覚の問題だ。美術は視覚の問題だ。音楽が抽象化し、絵画が抽象化しても、美しいと感じるか否かの基準は変わらない。いずれも、人間の感覚に「グラウンド」している。

生成AIは、芸術の分野においても、新しい創造物を作り出しているかのように見える。しかし、これも創造と言えるかどうかは疑問だ。

特に絵画においては、人間が作ったものを、人間の指示に応じて組み合わせていくというだけのものであるようにしか見えず、そこに創造の要素があるようには思えない。また、小説も人間が細かく指示しないと、読むに値するものはできない。面白いストーリーが出てこないのは、AIの本質的な問題点が関係しているのだろう。

面白いと感じたり、驚きや感動などの感情を持っていなければ、小説は書けない。人間がストーリーを考え、手取り足取り指導する必要がある。AIはそれに応じて見かけが正しい文章を出力してくれる。だが、ストーリーを考えるのは、人間だ。

このように考えると、芸術の分野でのAIの創造能力は、限定的なものだと考えざるをえない。

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野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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