無印が過疎地のビルで「3フロア借り上げた」結果 無印良品はいかに「土着化」しているか(2)

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無印良品は、JR函館駅前の老舗デパートにある店舗が手狭になり、新たな候補地を探していた。これを知った函館本町開発の岡本は、店舗の決まらない3階に無印良品に進出してもらうように掛け合う。人気のあるブランドだし、4階の若者向け交流場も積極的に活用してもらえると考えたのである。

良品計画の会長、金井政明によると、土着化成功のカギは、地元の“スーパーマン”との連携だという。地方の問題を正面から受け止め、多くの人を巻き込み、自ら率先して解決しようとする人である。

函館の場合は、相談に来た岡本がそうだった。彼は、高齢化や人口減、商業施設の劣化が進む函館西部地区の青柳町の副会長としても活動している。

熱意はよく理解できたが、話を聞くと、1、2階のテナントも決まっていない。観光地の五稜郭に近い繁華街だが、JR駅からは遠い。またタワー形式の駐車場はスペースが少なく、混雑時には近くのパーキングを利用することもある。さらに新開発ビルのため家賃も高めだ。

金井は他社のトップにも進出の話を持ちかけたが、いずれも消極的であった。3階のスペースを無印が借りるとしても、1、2階が埋まらないのでは成功はおぼつかない。

無印良品の大胆な「決断」

金井は岡本と開設予定地の隣のミスタードーナツで会談した。そこで、決断を伝える。他の企業に進出を促したがうまくいかない。それで、1階から3階まですべてのフロアーを無印良品で借りることにしたい。

岡本はこの言葉の衝撃を今も忘れられないと、今年9月に筆者が訪ねたとき話していた。そして、3フロアーを全て借り上げた、2500㎡の日本北部最大の無印良品が誕生した。

土着化や個店経営の難しさを、金井はよく理解している。特に、それぞれの地域の風土や事情に合わせて、地元に巻き込まれるコミュニティ・マネジャーを育てるのは容易でない。長く住民と密な交流を続け、地方の活性化を目指す人材にならなければならない。

悩ましいのは、そのうえで良品計画の売り上げや利益を増やすことだ。だが、商売を前面に出すと、地元の人に「また東京の会社が儲けに来て、利益が出なければ、どうせ去っていく」と思われてしまう。

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