無印が過疎地のビルで「3フロア借り上げた」結果 無印良品はいかに「土着化」しているか(2)

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少しでも感動に貢献できればと、オープン直前の1日を高校生たちに貸し切りで解放することにした。まだ、だれも体験したことのない無印の最大店舗を独占し、仲間たちと歩き回る。この日は、彼らにとって忘れられない思い出となったようだ。

「東京にある無印は、大したことない。故郷の直江津の方がいい」。そう思ってくれれば、と古谷は願っている。

「学校でやってはいけないこと」をする

少子化の進む地方は、小学校の統廃合も進む。直江津地区も例外ではなく、地元の小学校の廃校が決まったときにも、「何をしたらいいだろう」と古谷は尋ねられた。保護者たちや町内会の人々とアイデアを出し合った。

子供にとって思い出深いのは校庭であろう。「火遊びはいけません」と、子どものときにたびたび注意された経験は誰でもある。公共の施設の小学校は特に火の扱いに厳しく、炎を見るのは理科実験室くらいだ。

だが、「もし、思い出の校庭で火遊びができたら、わくわくする」。古谷はそう考えて、校庭でのキャンプを提案した。相談を持ちかけた人々も、思いがけない提案に驚く。でも、どうせなくなる学校ならば火を焚いても大丈夫ということになった。

そして、近所の卒業生も集まり、無印良品が提供したテント11張りなどのキャンプ用品を持ち込んだ。閉校前の一夜を、かがり火と星空の下で語り過ごした。

イトーヨーカ堂の「フードコートに思い出がある」と言う人は少なくなかった。見晴らしのいい2階にあったフードコートは、35年以上にわたり、世代を超えた憩いの場だった。

これを事業に生かせないか。古谷たちは同じ場所に、「なおえつ良品食堂」を置くことを決めた。ここには、あえて無印のレストラン事業部を入れていない。地元の食材や飲食店の関連の商品で食を楽しんでもらいたいと思ったからだ。

目玉は、高校生以下に限定販売の税込み300円ラーメン。放課後にたわむれたり、勉強したりする場所が少ない生徒たちが、長居できるように値段も抑えた。もっとも、300円のラーメンを食べながら、倍以上の値段のスタバの限定品も飲む子たちもいる。

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