住友化学の最悪決算招いた経団連会長の経営判断 外部要因への耐性低く複数事業が同時に炎上

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医薬品も事業リスクへの対処がうまくいっていない。

そもそも市況に左右される石化等の汎用品を抱える大手総合化学メーカーでは、需要が景気で上下しにくいヘルスケア関連の事業に力を入れるのがトレンドだ。

他の大手総合化学メーカーでは、たとえば三井化学が眼鏡レンズ材料や歯科材料、旭化成が医療機関向け除細動器などをコツコツと伸ばしてきた。それに対して、住友化学は住友ファーマの医薬品に偏重している。

医薬品は、ラツーダのように大型薬が当たれば大きいが、特許切れまでに次の大型薬を確保できなければたちまち厳しくなる。だが、売れる新薬の開発は困難で失敗が当然の世界。創薬の確率を高めるために、医薬品業界では自社で巨額の研究開発費を投じるとともに有力な新薬候補を持つ企業を買収する「規模の競争」が行われている。

住友ファーマの規模は、国内医薬品メーカーとの比較に限っても売上高で7位の中堅だ。北米での事業を中心に中枢神経系へリソースを集中する策を取るが、世界的な競争が激化する中で、難しい立ち位置にいる。

以上のように多くの事業は今の業績が悪いだけではなく、先行きでも不安が漂う。

リスクマネジメントに問題はなかった?

決算会見で、岩田社長にこれまでのリスクマネジメントに問題がなかったのかを尋ねると、「リスクマネジメントに問題があるとは思っていない。事業構造として市況に影響される製品の割合がまだ多いことに問題があると思っている」と述べた。

だが10年前後の間でみても市況製品の割合が増えるような経営判断をたびたびしてきたほか、医薬品のパテントクリフをカバーできていないのは、リスクマネジメントに問題があったからではないか。結果論ではあるが、経営は結果責任だ。

SBI証券シニアアナリストの澤砥正美氏は「需給の変動に大きく左右されない独自製品をいかに持ち、拡大できるかが重要だ。市況製品であるラービグやメチオニンの事業よりも、そういうものの開発にもっと資源投入をしているべきだった」と指摘する。

経営判断が業績に影響するまでにはタイムラグがある。各事業の状況や経緯をみると、前社長である十倉氏の責任は大きい。

住友化学は、来期(2025年3月期)の業績回復を目指して、事業整理対象の拡大や投資の絞り込みを行ってコスト削減やキャッシュの創出を進めたうえで、「新生スペシャリティケミカル企業」の実現に向けて抜本的な構造改革を行うとしている。リストラを進めるうえでは、今の苦境を招いた経営判断を検証し、体質改善につなげることが求められる。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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