「年末年始までに日経平均3万5000円」は可能だ 「イスラエル・ハマス情勢」の影響は限定的

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アメリカのFRBによる金融引き締めの長期化観測を背景にした長期金利の急上昇で、株式市場への逆風は収まっていない。

慎重な投資家は、こうした状況下で、もし中東情勢が一段と緊迫化すれば、原油価格などの急上昇がインフレを再加速させ、さらに金融引き締めの長期化懸念から株安に拍車をかけるという最悪のシナリオを警戒、身構えているようだ。

一枚岩ではない「アラブ」、最悪事態の可能性は高くない

では今後はどんな展開が予想されるだろうか。主なシナリオは以下の3つだ。①イスラエルとハマスの戦争、②イスラエル・アメリカ(中東の駐留米軍含む)とハマス(レバノンの親イラン武装組織ヒズボラを含む)・イラン・シリアとの戦争、③イスラエル・アメリカ・ドイツ・イギリスとハマス・アラブ諸国全体の戦争だ。

EU(欧州連合)首脳は26日、イスラエルとハマスの戦闘に「一時的な中断」を要請。国連総会は27日「人道的休戦」を求める決議案を採択(アメリカ等は反対、日本等は棄権)したものの、イスラエルのヨアヴ・ガラント国防相が28日、「われわれは戦争の新たな段階に入った」という声明を発表をするなど、情勢は依然予断を許さない。

それでも現在のところは①、あるいは②の「入り口」のところまででとどまる可能性が高いと見る。なぜなら停戦を要請している国が圧倒的に多いからだ。大国であるサウジアラビア(イスラエルと国交正常化交渉は凍結)、エジプト、ヨルダン、UAE(アラブ首長国連邦)が停戦を要請。さらに、トルコやカタールも、ハマス支持を打ち出していながらも、やはり停戦を要請している。

このように「ハマスとアラブ諸国(除くイラン・シリア)は一枚岩ではない」ことを、株式市場参加者は認識すべきだ。さらに③となると、可能性は一段と低くなる。ロシアや中国も停戦を要請しているからだ。

すでにアメリカはイランや、ヒズボラの介入を抑止するため、イスラエル周辺に原子力空母を派遣するなど、地域での軍事力を増強している。バイデン大統領は英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダの首脳と6カ国電話協議を行い、他の中東地域への紛争拡大阻止に向け、緊密に連携をとることを確認済みだ。イスラエルの自衛の権利を支持する一方、ハマスに対しては人質の即時全員解放を要求。ガザからの出国を希望する各国の国民を支援するため、協調する方針でも一致している。

このように、不透明感は消えていないものの、イスラエル・ハマス情勢が株式市場に与える影響は限定的であるというのが私のメインシナリオであり、足元は押し目買いで対処すべきだと考える。 

(本記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

糸島 孝俊 株式ストラテジスト

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いとしま たかとし / Takatoshi Itoshima

ピクテ・ジャパン株式会社投資戦略部ストラテジスト。シンクタンクのアナリストを経て、日系大手運用会社やヘッジファンドなどのファンドマネジャーに従事。運用経験通算21年。最優秀ファンド賞3回・優秀ファンド賞2回の受賞歴を誇る日本株ファンドの運用経験を持つ。ピクテではストラテジストとして国内中心に主要国株式までカバー。日経CNBC「昼エクスプレス」は隔週月曜日、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」、BSテレビ東京「日経ニュースプラス9」、ストックボイス、ラジオNIKKEIなどにも出演中。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、国際公認投資アナリスト(CIIA)、国際テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト(CFTe)。

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