パレスチナとイスラエルの和平で最大の壁は何か 命がけで「2国家共存」を進める指導者は出現するか

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1978年、アメリカ大統領の別荘「キャンプ・デービッド」で、当時のアメリカのカーター大統領が仲介役となり、エジプトのサダト大統領(右)とイスラエルのベギン首相(左)との間で中東和平に向けた「キャンプ・デービッド合意」が出された(写真・World History Archive/ニューズコム/共同通信イメージズ)
2023年10月7日、イスラム武装組織ハマスがイスラエルに対し大規模な攻撃を始めて2週間が過ぎた。ヨルダン川西岸とガザ地区で構成されるパレスチナ自治政府において、ガザ地区を実効支配しているハマス。これまでロケット砲を散発的に発射する程度の攻撃を続けていた彼らが今回、なぜ大規模な攻撃を始めたのか。
ユダヤ・イスラエル専門の出版社を経営し、イスラエルの内在論理に精通するミルトス社の谷内意咲社長に、イスラエル側からみた今回の攻撃について聞いた。

 

――ハマスによる攻撃、これまでにない規模となりました。

これまでのものとは規模も形態もまったく違っていました。数千発のロケット弾攻撃を合図に、2000人を超えるハマス戦闘員が国境の壁やフェンスを破壊して地上から、船を使って海から、パラグライダーで空からイスラエル領内に侵入し、一般市民を虐殺しました。かつてない規模で、用意も周到でした。

辛くも逃げ延びたイスラエル人は、「彼らは単なるテロリストではなく、訓練された戦闘員だった」と証言しています。数年かけて準備してきたと見られています。数百名にのぼる大量の一般市民を人質として連れ去ったのも、今までにないことでした。

――モサド(イスラエル諜報特務庁)やアマン(軍諜報機関)、シンベト(治安・テロ対策機関)など世界に名だたる諜報機関を持つイスラエルは、攻撃するとの情報をつかめなかったのでしょうか。

これだけの規模の攻撃ですから、準備段階で何らかの情報が入り、兆候を察知していないはずがありません。しかし情報を分析する段階で、さほど重要視されなかった可能性が高いと見ています。そこまでの脅威にはならないだろうと。この失態は、50年前のヨム・キプール戦争に似ていると指摘する声があります。

よみがえった「ヨム・キプール戦争」

――ちょうど50年前の1973年10月6日、第4次中東戦争が勃発しました。ユダヤ教で最も神聖な日「ヨム・キプール」(贖罪の日)に当たったため、イスラエルでは「ヨム・キプール戦争」とも呼ばれます。

今回の襲撃は〝カラー版〟のヨム・キプール戦争だと言った人がいます。つまり、白黒のアーカイブと化していたヨム・キプール戦争が現代によみがえったという意味です。

9月から10月にかけて、イスラエルではユダヤ教の重要な祭日が続きます。ユダヤ暦は基本太陰暦なので毎年西暦とのズレが生じるのですが、2023年10月7日はシャバット(土曜日のこと、一切の労働が禁じられる安息日)であり、仮庵の祭りの最終日である「シムハット・トーラー」(トーラーの喜びの意)と呼ばれる祭日でもありました。

「トーラー」とは、ヘブライ語聖書の最初の5巻である「モーセ五書」のことです。ユダヤ教徒は1年かけてトーラーを読み進め、読み終えた喜びと感謝を捧げるのが「シムハット・トーラー」です。50年前は最も厳粛なヨム・キプールが狙われましたが、今回はこの喜びの日がターゲットとなりました。

ヨム・キプール戦争の時は、エジプト人諜報員によって極めて確度の高い開戦情報がイスラエルのモサド(諜報特務庁)にもたらされていたことがわかっています。けれどもその6年前の「6日戦争」(第3次中東戦争)で大勝利を収めたイスラエルは、敵を完全に侮っていました。

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