九州工業大の「旧式半導体製造ライン」が再び輝く 30年前導入の「死蔵状態」から人材教育に活路

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九州工業大学の社会人向け講座
九州工業大学で行っている半導体デバイスの製作体験の実習。受講生自らシリコンウェハーを熱処理する(記者撮影)

半導体関連の人材不足が問題となる中、九州工業大学マイクロ化総合技術センター(福岡県飯塚市)の社会人向け講座が好評だ。

半導体デバイスの製作を体験する実習に加え、ビデオ会議を利用した遠隔でのセミナーも用意。日本の大手半導体メーカーが新人研修で利用するなど、専門教育の需要をうまく取り込んでいる。

講座で用いるのは、同センターが研究用として約30年前に導入した古い製造ライン。ほとんど有効活用されず、近年まで半ば「死蔵状態」と化していたものだ。用途開発によって輝きを取り戻し、現在は大学側に貴重な外部収入をもたらす。

同センターによると、年間1億円ほどかかる施設のランニングコストを、数年以内にセミナーの受講料や設備の使用料ですべて賄えるようになるという。大学の資産を社会に還元し世に貢献することで、自らの食い扶持も確保する。そんな一石二鳥の取り組みに迫った。

「手動の作業」が教育には最適

「1998年に半導体関連産業で働く人は約23万人いたが、業界の低迷で2019年には約17万人に減った。九州を中心とした設備投資の盛り上がりを受けて、少なくとも元の数ぐらいの労働力が必要になるだろう」。某人材派遣会社の幹部はそう語る。

一方、半導体メーカーには自前で人材を育てにくくなっている事情があるという。それは自動化に伴う製造工程のブラックボックス化だ。

最新鋭の機器に材料を投入すると、すべての作業がその内部で進んでいく。つまり、半導体が完成するまでの過程を目で見て学ぶことは不可能。先端の工場ではOJT(職場内訓練)が難しくなっているのだ。

工程の全体を俯瞰できる人材は現場に必須。同センターはそこに目を付けた。手動での作業を要する旧式の製造ラインであれば、実際に何が行われているかを見られる。

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