ジャニーズ、にじみ出る「怒り」が危険である理由 「NGリスト」騒動よりもっと深刻な問題

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さらに深刻なのは、本当の被害者に「自分も疑われているのではないか」「こんなことを言われるのなら申告はやめようかな」などの感情を抱かせてしまうこと。文章が長い割には最も配慮すべき部分のフォローが足りていない感があり、その理由は怒りの感情が前に出はじめているからではないでしょうか。

「やられたらやり返そう」のリスク

これ以外でも、井ノ原副社長がファンクラブのブログで、「嫌なことは嫌、違うことは違う」「きちんと戦わなければいけないな」などとつづったことがメディアで報じられています。せっかくファンへの感謝とお詫びを丁寧につづっていたのに、なぜ最後に「戦う」という強い言葉を使わなければいけなかったのか。

これだけ怒りの感情がにじみ出ている以上、文書の内容に関しては「本当に事実無根の可能性が高い」とみなすのが自然でしょう。いずれの文書もすべて正論であり、真偽の不確かな情報を報じたメディア側に問題があるように見えます。

しかし、不祥事を起こし、被害者救済を控える現在のジャニーズ事務所は、「否定や訂正はOKだが、怒らないほうがいい」という状況にあります。東山社長や井ノ原副社長本人なのか、それとも支える人なのか。企業として、トップとして耐えきれず、その立場を忘れて怒りをにじませていることが、さらなる批判につながっているのです。

もしジャニーズ事務所関係者の中に、「この部分はやられたらやり返そう」という意識があったとしたら時期尚早。ジャニーズ事務所とメディアが戦争のように攻撃し合い、エスカレートしていく状況が生まれるだけでしょう。

やはりこれほどの不祥事を起こした以上、しっかりと沈んだ状態で耐える姿を見せる期間がなければ再浮上は難しいもの。被害者救済と再発防止が一定の評価を得られるまでは、攻撃を受けても最小限の否定や訂正にとどめて、感情は出さないのがセオリーであり、小出しに怒りを出していくのは得策とは言えないのです。

ジャニーズ事務所が最優先すべきは、補償救済と再発防止であることは、もはや周知の事実。これ以外のことに過剰反応すると、「NGリスト」のように世間の議論が置き換えられて再浮上の時期が遅くなってしまうでしょう。今回のミスを見る限り、そんなリスクを防ぐためには、企業のガバナンスや危機管理に長けた新たな人材を加えたほうがいいのではないでしょうか。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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