クラウドファンディングは「映画の種」だった 片渕須直監督がクラウドで資金を集めた理由

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――その確信は『マイマイ新子』がロングランヒットしたということもあるわけですか?

大人が楽しめる作品を意識した

片渕須直(かたぶち すなお) 1960年生まれ。日大芸術学部映画学科在学中から宮崎駿監督作品『名探偵ホームズ』に脚本家として参加。『魔女の宅急便』(1989)では演出補を務めた。TVシリーズ『名犬ラッシー』(1996)で監督デビュー。その後、長編『アリーテ姫』(2001)を監督。TVシリーズ『BLACK LAGOON』(2006)の監督・シリーズ構成・脚本。2009年には昭和30年代の山口県防府市に暮らす少女・新子の物語を描いた『マイマイ新子と千年の魔法』を監督。口コミで評判が広がり、異例のロングラン上映とアンコール上映を達成、全国にも飛び火した。(撮影:梅谷秀司)

たとえば今、原恵一さんのアニメ映画『百日紅~Miss HOKUSAI~』が公開されていますが、ある人は「あれは葛飾北斎の娘の話で、浮世絵だけでなく枕絵なども出てくる。子供が観たらどうするんだ」と心配されたそうなんです。

一般的に、アニメファンが観に来ない作品は、子供向けに分類されてしまう。そういったある種の固定概念や、空気が業界の中にもあるわけです。『マイマイ新子』の時もそういうことがありました。

『マイマイ新子』は子ども連れに向けて宣伝されていたし、実際にふたを開けてみても、シネコンでは日中の上映時間が設定されていた。ただ、僕には確信のようなものがあったのですが、おそらく子どもは初めて接するタイトルには飛びつかないだろうと。それよりはテレビで見慣れているもの。

例えば最近なら「妖怪ウォッチ」とかですね。ほかにも「ドラえもん」や「ポケモン」とか「名探偵コナン」「クレヨンしんちゃん」といった顔なじみの作品ですね。こういった作品は何十年もの間、テレビ局の定番作品として放送されてきた。そこに割り込んでも、子どもがいきなり反応してくれるとは思えない。

だから『マイマイ新子』の場合は、大人が観ても楽しめる作品にしようと思ったんです。まず大人の人がひとりで観てくれて、それから、これは自分の子どもに観せたいなと、思ってもらえるような作品であれば良いわけで。そうすれば結果的に、お客さんは広がっていくと思ったわけです。

ただ映画を作る時からそう考えてはいたのですが、興行に際しては子供連れをメーンターゲットにとらえてるから、朝から夕方までの時間で上映すると、最終回は17時頃のスタートとなってしまう。これはつまり、会社帰りの人はまず観に行けない時間なわけです。ところが、今のシネコンのシステムは、最初の土日でお客さんが入らなければ上映回数が減ってしまう。『マイマイ新子』もどんどん朝の上映になってしまい、最後は9時半くらいからの上映になってしまったんです。

――その時の対策は何かあったのですか?

その時、(『サマーウォーズ』などの)細田守君の作品の宣伝スタッフの人が、「ツイッターは覚えておいた方がいいですよ」と教えてくれたんです。そこで、こういう作品をやっているんだとツイートしたら、3週目くらいから、平日の朝9時に会社のサラリーマンの方が観に来てくれるようになった。3週目の最後の日などは、朝9時台の回で9割以上、大人のお客さんで席が埋まった。それから僕らはシネコンでの公開2日目くらいから、これは自分たちのもくろみと違うと分かったので、夜にレイトショーで上映してくれる映画館がないかと探しました。そうしたら、1週間だけだったらとやりましょうと言ってくれた映画館があった。

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