オバマ夫人が告白、勝手に「レッテル」貼られる怖さ 大統領選でも経験、固定観念がある種の"真実"に

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最近、職場研究の分野で研究者がそのイメージについて論じている。黒人女性が少しでも怒りに似たものを表明したら、それはその人の性格の特徴と見なされがちで、怒りのきっかけになった事情と結びつけて考えられることは少ないという。

そうなると当然、その人は社会の隅へ追いやられやすくなるし、だめな人間として一蹴されやすくなる。やることはなんでも――とる行動はすべて――線を踏みこえていると見なされかねない。それどころか、単純に線の反対側のまちがったところに生きる人間としてしりぞけられるかもしれない。そのレッテルを貼られると、すべてのコンテクストが消えてなくなる。“怒りっぽい黒人女性! それがおまえだ!”

どこかの地域が“貧民街(ゲットー)”と呼ばれるのと変わらない。手っとり早く効果的にそこをしりぞける手段。近づかず、怖がって身をひいて、ほかへ投資するように警告する、暗号化された偏見。豊かさ、活力、個性、可能性はないがしろにされ、周縁へ追い払われる。

周縁に閉じこめられていることで、怒りを覚えたら? 投資されない地域で暮らしていることで、身動きが取れずに切羽つまった人のように振る舞ったら? そう、その行動のためにステレオタイプが確認されて強化されるだけだ。

するとさらに身動きが取れなくなり、それについて発言しても、まともに受けとめられなくなる。声を失い、耳を傾けてもらえなくなって、他人にレッテルを貼られた失敗者として実際に生きることになるかもしれない。

とてもつらい。その気持ちはわたしもわかる。

攻撃的で怒りっぽいという印象を消し去れない

どれだけ冷静でいても、ファーストレディとして勤勉に働いていても、攻撃的で怒りっぽく、それゆえ尊敬に値しないというわたしの印象は、消し去るのがほとんど不可能だと感じられるときもあった。

2010年にわたしは、アメリカで子どもの肥満が蔓延している問題に声をあげ、比較的シンプルな変化を求めて運動をはじめた。もっと健康にいい食べ物を学校で提供できるようにするためだ。

すると、保守派の有名コメンテーターたちが昔のステレオタイプに飛びつき、それを攻撃に利用して、わたしのことをこんなふうに描きだした。拳を振りまわす出しゃばりな破壊者で、子どものしあわせをぶち壊し、自分の持ち場ではないところへ口出ししようと躍起になっている。わたしはフライドポテトを食べた人を刑務所に入れるのだという。政府が強制する食べ物を強引に売りこんでいるのだとも。

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