台湾初の国産潜水艦進水に中国が戦慄する理由 中国による海上封鎖を突破できる国防上の一里塚

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台湾防衛当局は艦名以外の詳細は明らかにしなかった。イギリスの軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」の分析によると、潜水艦の全長は約70メートル、全幅は約8メートルで、満載排水量は約2700トンとそれぞれ推定される。

海自のたいげい型(全長84メートル、全幅9.1メートル、基準排水量3000トン)には及ばないものの、通常動力型潜水艦としては大型となる。

台湾の自主建造潜水艦は新型コロナウイルス禍の2021年11月に起工され、2025年に台湾海軍に配備される予定だ。台湾国防部(MND)が9月12日に発表した隔年の「国防報告書2023」によると、新潜水艦は2023年後半に船体の溶接と装備システムの試験を実施する予定だ。

通常動力型としては大型

進水式の映像や画像では、艦尾舵がX字型となっていることが確認できる。これは海自の主力潜水艦「そうりゅう」型とその後継となるたいげい型と同じで、従来の十字型の艦尾舵よりも水中運動性に優れ、着底しても舵の損傷が少ないことがメリットとなる。水深の浅い台湾海峡をはじめ、浅瀬での優れた操縦性を潜水艦に持たせるためと考えられる。

海上自衛隊の潜水艦「ずいりゅう」。「そうりゅう」型の5番艦で、艦尾の舵がX字型になっている(写真・海上自衛隊ホームページ)

台湾の国章となる太陽の12条の光の紋章を標した幕が潜水艦の艦首を覆っているが、これはおそらく魚雷発射管の詳細が明らかにならないようにするためだと思われる。

ただし軍事情報専門の「ネイバルニュース」は、6つの魚雷発射管が装備されると伝えている。またロイター通信によると、ロッキード・マーチン製の戦闘システムを利用し、アメリカ軍が使っているMK48魚雷を装備。3番艦以降にはミサイルを搭載する計画だという。

ジェーンズの分析によると、進水式の映像では、台湾がソ連/ロシア海軍のキロ級など他のディーゼル電気潜水艦(SSK)に見られる均一な円筒形の形状要素の代わりに、やや箱状の前部と上部を採用したことを示している。

これは、この潜水艦がダブルデックの2層の魚雷室を備えて設計されている可能性があることを示している。これにより、より速い発射速度で敵艦に魚雷を発射できるようになる。

X舵の配置と合わせて、この潜水艦の形状は、台湾海軍が戦闘群の護衛など烈度の高い作戦よりも、ゆっくりと静かな抑止的な哨戒を優先していることを示唆している。いざとなれば中国海軍相手の待ち伏せ攻撃もできる。

このような潜水艦の活動は中国海軍の作戦計算に大きな不確実性をもたらし、同軍が台湾領海内で過度に攻撃的になるのを阻止することになるだろう。つまり、中国海軍にとっては台湾の新たな潜水艦の登場で予測不可能性が極めて高くなり、挑発的な行動に出る前に行動を再考せざるをえなくなるだろう。

また、台湾のより大規模な潜水艦艦隊の存在により、中台関係が敵対的な制御不能に陥った場合、中国海軍は攻撃手段を再考する可能性がある。台湾沿岸を攻撃する中国軍の計画は現在、075型強襲揚陸艦や民間のRO-RO(ローロー)船など潜水艦からの攻撃に対して極めて脆弱な、低速で大型の船舶の利用を中心にしているからだ。

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